nobel(氷帝)

□雷(跡岳)
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部活後のレギュラー用の部室。

残っているのは部誌を書いている跡部と彼と一緒に帰ろうと待っている向日のふたり。

「…先に帰っても良いんだぞ?」

部誌から目を上げ、跡部が向日に言う。

顔を上げる動作でさえ優雅だ。
一瞬見入ってしまった向日だが、すぐに我に帰り、多少焦りながら答える。

「景吾と帰りたいんだから良いだろ!」

そう言い、拗ねたように少し膨れっ面をしてみせる。

「ふん…そうか。分かったからそう拗ねるな。」

苦笑まじりに微笑み、跡部が答える。

部室にはまるで春の日のような穏やかな空気が流れていた。

突如その空気を壊したのは、ゴロゴロ…という雷の音だった。

「雷が鳴ってやがる…。チッ、一雨きそうだな…」

跡部は少々嫌そうに顔をしかめ、向日に言うでもなく呟く。

しかし、今まで跡部の独り言にさえいちいち反応していた向日は何も言わなかった。


不思議に思った跡部が向日の方を見ると、向日は俯いていた。

「おい、どうした?岳…」

“と”の声は、雷鳴によって掻き消された。

「光ってからすぐに落ちた…。大分近いな…」

そう呟いた時、跡部は制服の裾を引っ張られる感覚を覚えた。

見ると、隣に座っている向日が跡部の制服の裾をぎゅっと掴んでいた。

掴まれたところから微かに震えが伝わってくる。

「岳人…お前、雷怖いのか?」

「…っ怖くねぇよ!」

そう言って跡部から離れた瞬間、空が光り、さっきよりも大きな雷鳴が響いた。

「……やっぱり怖いんじゃねぇか。妙な意地張るな。」

ほんの少しの沈黙の後、跡部が溜め息を着きながら言った。

向日は…
跡部に抱きつき、ぱっと見て分かる程に震えていた。

「…だって、かっこ悪ぃじゃん…」

「そうか?」

向日を抱きしめ、頭を撫でながら安心させるように優しい声色で跡部が言う。

「だが、今のが一番近くだろう。もう遠ざかっていくだけだ。」

向日がコクンと頷いたのが分かった。

「雷が鳴り止んだら、一緒に帰るか。」

向日はもう一度、強く頷いた。
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