*〜ASTERISK〜
□Stab needle
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どれくらい時間がたったのだろう。
いつの間にか寝てしまっていた自分の体の下には布団が敷かれ、ふんわりと毛布が掛けられていた。
独房の扉が開く鈍い音で目が覚めた。
扉の向こうには紛れもなく先刻に自分にキスをした張本人が立っている。手に持ったトレーには何かがのっているようであった。
「おはよう……って時間でもないか。とりあえず夕食持って来たから」
「ありがとう」
それだけ言うと布団からはい出てサラはトレーを受け取った。
「多分、もうすぐ親父は帰って来ると思うから。そーいえば君の名前聞いてなかったね」
答えたく無かったが、ここまでしてもらっていて答える他に無い。
「……サラです」
「そう。俺はイルミ。一応よろしく」
そう言うと、イルミはトレーを挟んでサラの前に座りこんだ。
サラは戸惑っていた。
イルミは容姿から言えばどう見たって綺麗な女性なのだ。
長く手入れが行き届いた黒髪、大きな猫目、整った顔、声も他の男に比べては断然高い。
(どっからどう見たって女だけどなぁ。でも、キスされたし、さっきも俺って言ってたし、体格は良さそうだし)
サラが顎に手を当てて考えていると、イルミが不思議そうな顔して見つめていた。
「ねぇ、さっきからどうしたの?」
「えっ、あの……その……」
失礼かどうかと悩んだが聞いてみなければどうにもわからない。
「その……イルミさんは男ですか?」
「あっ、違うよ」
ヤッパリ女の人だったんだ。申し訳ない…と思っていたら、
「俺のことは呼び捨てでいいから。で、何質問したんだっけ?」
要するにイルミは自分の名前に“さん”を付けられたことに気をとられていて、話を聞いていなかったのだった。