頂き物
□シンデレラの幸福、王子の受難
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『昔々、あるところにとても美しい少女がおりました。
その少女は継父と継妹に日々いびられていましたが、それにも負けずに謙虚に健気に生きていました』
「…っしょぱ…なんだこれは!?おい、ファイ!!!」
朝食のスープを一口飲んだ途端に継父、飛王はこの食事を用意した継子を怒鳴りつけた。
あまりにもスープが塩辛かったのだ。
「どうかなされましたか、お父様」
呼ばれた継子、ファイはぼろぼろの服を纏っていたが、それでもその美しさは自然と人目をひく。
陽の光を浴びて輝く金髪、透き通った蒼い瞳、華奢な身体。
どこから見ても思わず守ってあげたくなるほど美しい少女だった。
「お呼びですかじゃないだろ!なんだこのスープは!?」
「も、申し訳ありません。また塩を入れすぎてしまったかもしれません」
「申し訳ないってお前な、昨日もますかったじゃ…」
「まぁまぁお父様。せっかくだから朝食は仕事場でしてきたらいかがですか?」
ふんわりと微笑んで告げた少女はファイの継妹のさくらだ。その笑顔は春の日だまりのようで、人の心を自然と和ませる。
飛王もさくらの言葉を素直に受け取って席を立ち、ファイに出掛ける準備をさせた。
そして、出掛ける前に「今夜の舞踏会に着るドレスをしっかり用意するように」といいつけて家を出ていった。
「もったいないですね、こんなに美味しいスープなのに」
「ありがとうー、さくらちゃん。お父様のスープは塩を10倍いれてるから仕方ないよねぇー」
ファイは全く悪びれた様子はなく、むしろしてやったりと微笑んだ。
楽しそうに微笑んでいる姿に先ほどの可憐な少女の印象は全くない。
美しさには変わりがないが、どこか小悪魔的な印象になったそれこそがファイ本来の姿だろう。
「あんまりやりすぎると後々大変ですよ、お姉様。………いえ、お兄様」
さくらの言葉にそんなこと気にしないとファイはへにゃんと微笑んだ。
そう、ファイは少女なのではなく青年だ。
物心ついた後に飛王に引き取られたファイはその頃からいびられることが多かったので、これなら女のフリをしたほうがまだいいかなと安易に考えたのが始まりだ。
もともと女の子と間違えられるほどの顔立ちだったので、バレることもなく今日まで過ぎてしまった。
ファイが男であることをうち明けた人物は妹のさくらだけだった。
「舞踏会のドレスの方は大丈夫ですか?ごめんなさい、私なにも手伝えなくて…」
「平気だよー。魔法でぱぱっと作っちゃうからさー」
可愛いドレスにするから期待してねーと笑うファイにさくらもふんわりと微笑んだ。
今度の舞踏会は白鷺城にいる王子の妻を決めるために行われるようで、飛王はさくらをその妻にさせようとはりきっていた。
ファイがドレスの用意をしているのはさくらの分だけだ。
どうせ自分が留守番になるのはいつものことだし、舞踏会なら飛王の分は適当でも大丈夫だろうと考えていた。
さくらはファイが行かないことを残念に思っているようだが、ファイは実際のところは男でもあるし、何より顔も知らない王子のことになど興味がなかった。
それよりファイの心を占めているのは湖で見かけた少年だけだ。