捧げ物1

□双愛
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心の底から尊敬している人と



喧嘩ばかりだけど大切な仲間



貴方ならどちらを選ぶ…?













ありえない。
黒鋼は何度もそう呟き、目の前の光景を疑っていた。

「な、んで……」

「そんなに驚かなくてもいいだろ。折角久方ぶりに再会できたんだからな」

いきなり部屋に乱入してき、自分をベッドに押し倒して被さってくる相手は記憶にある通りの姿形。
優しい笑顔、真直ぐした眼差し、右腕にある龍の刺青。
いくら異世界の同じ人間でも見間違えるはずがない、しかしあの人はもうこの世に存在しないはずだった。

「ちち、うえ…?」

恐る恐る呟けばにっこり微笑み、息子の唇に優しく口付ける。
柔らかい感触が確かに感じられた。
死んだはずの人が、尊敬した父親が今自分の目の前にいる。
不思議な気分だった。

「黒様、その人ダレ?」

部屋の入り口から声が聞こえ、振り向くと旅の仲間であるファイがいつのまにかそこに立っていた。
黒鋼と全く同じ顔の人間が黒鋼を襲っている(ように見える)異様な光景に驚きの表情を見せている。
しかし目は、相手を射殺すかのように鋭く冷たいものだった。
それに気付いて黒鋼の父親は息子の上から退き、ファイに近付く。
一向に衰えない金髪の青年からの睨みに動じる事無く目の前で足を止めた。

「お前が鋼丸の恋人だな」

「…鋼丸?」

「おっと今は黒鋼か。俺はあいつの父親だ、よろしく」

ニッと笑顔を見せる、父親と名乗った男にファイは目を丸くする。
再び疑いの眼差しを向けると今度は困ったように頬を掻き始めた。
信用されていないのがビシバシ伝わってきたようだ。

「あー、ならこれならどうだ?」

なんとか信じてもらおうとファイの肩に手を置き、耳元で何事かを囁く父親。
始めはむすっとしていたファイだがその言葉に反応を示し、興味津々で話を聞いていた。
一言二言会話を交わして離れた時には先程の敵対心なんて微塵もなく、いつもの笑顔を浮かばせている。

「それ本当ですかー?」

「ほんとほんと。知らなかったんなら証明してやるよ」

二人揃ってニヤリと笑い、ベッドに腰掛けて一人様子を眺めていたバスローブ姿の黒鋼を呼ぶ。
不思議に思いながらも大人しく二人に近付くと、突然背後から父親に強く抱きつかれた。
驚いて抵抗する前に耳の裏をぺろりと舐められる。

「ぁ…ッ!」

ビクッと反応し、口からなんともいえない甘ったるい声が漏れた。
途端真っ赤になる黒鋼とは真逆に父親は得意気に笑い、ファイなんぞおおー!と拍手をしている。

「黒たんって耳の裏が感じやすいんだー」

「あと項な。噛み付くとそそる顔すんだよ」

「狽ネッ!!父上!?ι」

「他にはー?」

先程とは打って変わって瞳を輝かすファイに父親はいらない知識をどんどん叩き込んでいく。
被害を受ける黒鋼はなんとか逃げようとあがくが、後ろから回された腕はがっちりと固定されていてどうやっても外れる気配がなかった。





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