捧げ物1

□小さな戯れ
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「男なら誰でも一度は憧れない?」

「知るか」

怒りを含んだドスの効いた言葉は目の前の金髪に向けられ。
それでも相変わらずへらへらしているファイに青筋を浮かばせる。
そんな黒鋼の現在の恰好はというと…。



裾の短い女物の着物にエプロン、膝上までの黒いスパッツ。



頭にはメイド達が付けるようなフリルのレース。



オプションとして兎の耳と尻尾。



全く迫力のない姿であった。

「普通のメイド服でも良かったんだけど〜、黒様はやっぱり着物が似合うから和風メイドにしてみましたー」

「わけわかんねぇ…つか「めいど」って何だ?」

満面笑顔で拍手までしている魔術師に呆れ、頭を掻きながら疑問だったことを口に出す。
そしたら一瞬だけだがきょとんとした表情をされてしまう。

「そっかあ、黒様の世界はそんな風に言わないんだー」

「だから何をだ」

一人納得した風に顎に手を添えているのが気に食わず、だんだん苛つきが募ってくる。
額に更に青筋を浮かばせて睨んでくる黒鋼を大して気に止めずに思考を巡らせ、ファイは突然思いついたようににっこりと微笑んだ。

「あのね黒様、メイドっていうのは…」

「狽、わっ!!?」

そこまで言って腕をグイッと引っ張られ、そのまま勢いでベッドに身を放り投げる。
ファイも後から上ってきて壁際に黒鋼を追い詰め、顔の横に両手をついて逃げられないようにした。
顔を少し近付ければ身を強ばらせる彼にくすりと笑う。

「メイドっていうのは、ご主人様に奉仕しなくちゃならないんだよ?」

「え…?」

「例えば慰めたり、夜の相手をしたり」

耳元で呟けば途端に黒鋼の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
嘘の情報に純粋な反応を見せたところをみるとどうやら信じてしまったようだ。
手応えを掴んで内心ほくそ笑んでいるファイの心境など知りもせず、慌てたように突然暴れ始めた。

「冗談じゃねえ!こんな恰好してられるかッ!」

「でももう手遅れだよー?」

頭に乗せた物を外そうとする手を掴み、両腕とも壁に押しつけて更に距離を縮める。
それ以上下がれない黒鋼は拒むように顔を背けたが、頬にキスをされビクッと反応してしまった。
そのまま首筋を舐められ、所有の烙印を付けられるのを直接感じる。
腕を振り払おうとしたが意外に強いファイにはなぜかこういう時には適わず、結局されるがままの状態になっていた。

「やめ…やめろ!」

「今は俺が黒たんのご主人様だよ。ちゃんと言う事聞かないと」

「ふざけんな…!」

眉間に皺を寄せて睨んでも目の前の彼には通用せず。
それどころか鎖骨に歯を立てられ、躯を小刻みに震わせる。
そんな可愛らしい反応を見せる黒鋼にファイは楽しそうに笑うだけ。

「それとも、今日一日この恰好で俺とデートしてくれるの?」

「はッ?!ι」

「黒ろんはどっちがいいー?」

腹立たしいほどににっこり笑う彼の言葉に冷や汗が流れる。
このまま行為に及ぶか、表に出て醜態を晒すかという最悪の二択。
どちらに転んでも黒鋼にとって利益なんてあるわけがなかった。
しかし選ばなければ何をされるかもわからない。
まさに八方塞がり状態である。

「ねえ黒さまー」

「〜〜〜〜ッι」

「黒さまったらーー」

「だあッ!!もうやればいんだろやれば!!///」

茹で蛸のように真っ赤になりながら、やけくそになって叫んだその言葉に口端を盛大に上げる。
再び顔を近付ければ堅く瞳を閉ざしながらも受け身をとる彼に軽く口付けをした。


楽しませてね…?





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