捧げ物1

□恋人は「父上」
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世の中いろんな恋愛があるけれど



俺の場合はかなり異質















大学の講義が早く終了し、人の出入りが激しい駅前で佇む青年が一人。
まだ秋と呼べる月日とはいえ外は非常に冷え込んでいる。
群青色の空をその紅い瞳に映しながら普段着の上にオーバーコートを羽織り、時々傍に立っている時計塔で時間を確認しながら青年は賑やかなその場から動こうとしなかった。
通り過ぎる人や物には目もくれず、約束の相手が来るのを待って。
そしてもう何度目かわからない時間の確認をした時、ふいに己の肩を叩かれた。
不思議に思って振り向くのが人として当たり前、彼も例外でなく、首を少しひねった。
しかし完全に振り返る前に頬に何かが当たる。
少ししてその何かが予測できた瞬間、真後ろで可笑しそうに笑う人物を睨み付けた。

「今時大人がこんなことするか?」

「今時大学生がこんなのに引っ掛かるかね〜」

言えば言い返され、「うっ」と言葉が詰まる。
悔しそうに目線を逸らした青年の頬を触れていた指先で数回突き、最後にむにっと感触を楽しんで現れた男性は顔中に笑みを張りつけた。
傍らから見れば青年と同一人物としか思えないほど顔が似ている彼。
背丈もほとんど同じで、違う点といえば身に付けている服装と後ろで結われた長髪のみ。
一生をかけてもここまでそっくりな人物とは巡り合えないだろう。

「さて、それじゃ行くか」

そう言って本来の目的を果たす為、男性は街に向かって歩き出す。
未だ拗ねている青年の手をしっかりと掴み、人込みの中はぐれないように指を絡ませて。

「ちょ、父上!放せよ!」

「大丈夫だって。街中カップルだらけだから誰も気にしねぇよ」

「男同士は誰でも気にするって!」

「それにお前が子供の時よく繋いでたじゃねぇか」

「昔だろッ!?」

恥ずかしいのか懸命に放そうとするが聞き入れてもらえない。
この二人はどうやら親子らしく、そう言われれば外見がこれほどまでに似通っていることも納得は出来た。
父上という呼び方は高貴な家柄出身だからだろうか…。
しかし今の二人の様子を見ると親子と言うより、まるで別の関係であるかのような雰囲気だった。



例えるなら、「恋人」。














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