ツバサ

□相違点
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程よく焼けた肌に埋まっている真紅の宝石が間近に迫ってきた。
芳しいとは言えないが、不愉快でもないこの匂いは彼からのものか。
外はまだ日が高く、窓から室内に侵入してくる光はやや硬質そうな髪に吸収された様に、その漆黒をきらきら輝かせている。

「な、何でしょう」

ユゥイは突然目前まで顔を近付けてきた黒鋼に耐えられず、僅かに上ずった声で問い掛けた。
先程まで視線を落としていた雑誌は彼が邪魔で見えない。
そんな迷惑も気にせず暫し無言のまま、黒鋼はジッと睨み付ける様にユゥイの顔を観察してくるものだから訳が分からず困惑する。
何か行動を起こすべきか否か、そう迷いあぐねているとやっと相手の口から言葉が漏れた。

「やっぱ似てんな」
「………ファイ、に、ですか?」
「他に誰がいる」

確かにそうだが、その台詞自体今更ではないかとユゥイは思う。
自分達は双子、しかも同じ卵から生まれた一卵性双生児。似ているのは当然と言われてもおかしくはない。
現に今在学中の小龍・小狼兄弟だってどこからどう見ても瓜二つではないか。

「双子はここまで外見が似るもんなのか?中身はてんで違うってのに」
「さ、さあ……」

違ってるのは髪型ぐらいだと再び凝視し始める黒鋼にユゥイはたじろぐ。
残念ながら彼は兄とは違って、男に迫られて喜ぶような質ではない。
だから兄の恋人にあたる黒鋼に、もはや息がかかる程まで顔を近付かれるという行為は、ユゥイが動揺を表すには十分すぎる要素だ。
流石にそろそろ押し退けよう、そう思い雑誌を傍に置いた瞬間、ガバッと勢い良く着ていたトレーナーを捲り上げられた。

「ぎゃあっ!!?」
「…体付きも、肌の質もあまり変わんねぇな」

しかもそれだけに止まらず、あまり割れていない腹の上に手を滑らして感触を確かめる。
流石に赤面したユゥイの心境などまるっきり気にしてはいない。

「ちょっ、黒鋼さん!」
「あ、黒子」
「黒子なんてどうでも良いでしょ!アンタ一体何がしたいんですか!」
「何って、アイツとお前の違う所を知りたいだけなんだが」

いかにも真面目ですという顔付きで視線を絡ませてくる彼に間抜けな声が漏れた。

「未だに疑問なんだよ。何で俺がアイツに惚れたのか……何でお前じゃなくてアイツなのかってな」
「せ、性格がとか」
「それも一理あるだろうが、やっぱり腑に落ちねえ。黙ってる時でも俺はお前じゃなくてついアイツを見ちまうんだ。だからお前らの違いを見つけて検証してみようと思ったんだが…」

さっぱりわかんねぇと焦れったそうにしている黒鋼は、自分が惚気ているという事に気付いているのだろうか。
いや、恐らく無意識なのだろう。真剣な表情で悩んでいる様子から見ると、とても言葉を選んでいたとは思えなかった。

(その時点でもう俺はファイとは違うんだって、何で分からないんだろう…)

だが外見や性格の違いを見つけただけで、黒鋼が納得するとも思えない。
堂々巡りだろうと思われる無駄な事を必死で行っている彼は、何故それほどまでに自分達の違いを見極めたいのか。
理由はわからないが未だ違う箇所を見つけようと、今度は背後に回ってその後ろ姿を観察している黒鋼に呆れが生じ始めた時、ユゥイの中に一つの妙案が浮かんだ。

「黒鋼さん、一番手っ取り早い方法がありましたよ」
「何?」

振り返りながら笑顔で言えば僅かに期待していると伺える瞳が向けられる。
そして何か続きを紡ごうとした彼の肩を押し、そのまま力任せに押し倒した。





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