ツバサ
□Secretな僕らの関係
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―――ピピピピピピ‥
電子音を延々と鳴らし続けている目覚ましに気付き、布団の中にいる人物がもぞもぞと動いた。
手を伸ばしてスイッチを切ったついでに時刻を確認して、一度欠伸をしてから隣にいる彼を揺さ振り起こす。
「時間だ、起きろ」
寝起きで少々枯れている声に金髪の彼は薄く目を開けた。
自分を見ている紅い瞳に気付くなりへにゃりと眠そうな笑顔を向け、かさついている唇にキスを一つ。
「おはよ、ハニーvV」
「誰がハニーだ。ふざけてると病院送りにするぞ」
「そしたら黒ぽんが手取り足取りナニ取り看病してくれる?」
ゲシッとベッドから蹴り落とすと、それを無理矢理踏んで黒鋼は何も身に付けていない躯に衣類を一から着ていく。
後ろのビーギャー煩い猫の声は完全無視だ。
時計を放り投げると出勤時刻が迫っていたのでファイもすぐ身仕度を整え始めたが。
「そういやお前、今日残業だったな」
食べ慣れた彼の朝食を頬張り終わった後に唐突に口を開く。
「残業っていってもお泊りで見回りなんだけどねー」
軽く洗い物を済ませて手を拭きながらそう言うファイに不服そうな顔をしてみせる。
仕事とはいえ、出勤退勤院内、そして住居までとずっと一緒にいる黒鋼にとって、たった一晩彼と離れて寝るだけでも不愉快極まりないのだ。
交際を始めてからそれなりに時間が経つというのに、独占欲は薄れていくばかりか益々熱を上げていくばかり。
「患者やナースにちょっかいかけんじゃねぇぞ」
「しないってー。俺そんなに信用ない?」
「ああ」
きっぱり即答されてグサッと傷付いている彼は気にせず、干していた白衣を二枚分畳んで自分の鞄にしまう。
それは黒鋼なりの照れ隠しだと判っているのだが、機嫌を悪くしたのかファイは家を出る寸前までしつこく食い下がってきた。
さすがのそれに黒鋼が青筋を浮かばせ始めた時、「だったら」と声を上げる。
「そんなに俺が信用ないなら俺が黒鋼のモンだって事確かめたら良いじゃん!」
「な、朝から何…!?」
赤くなって怒鳴ろうとするその口を自分ので一度塞ぎ、呆気に取られている彼の耳に息を吹きかけた。
「ん……!」
それだけでくぐもった声が上がるとついクスッと笑ってしまい、ファイは睨んでくる恋人を無視して耳元で何事かを呟いた。
それを聞くなり黒鋼は耳まで赤くなり、離れた彼をごつこうとしたが容易く手首を取られて壁に押しつけられる。
目の前には自分が惚れた蒼と、金。
「不安なんでしょ?だったら良いじゃない」
いつも通りの崩れた笑顔を見せられ、黒鋼は深々と溜息をついた。
それが彼が敗北を認めた印となりあっさり解放する。
「一回だ。それが終わったらすぐに仕事に戻れ」
「だったら頑張って長引かせちゃおーっと」
一気にテンションが上がった彼に「ふざけんな」と罵声が飛んだが、黒鋼自身誰かにバレさえしなければ別に構いはしなかった。
密かに約束の時間を楽しみにしながらももうその事には触れず、二人共いつも通りに病院に出勤する。
彼らは同じ病院に勤務する『医師』なのだ。