ツバサ

□君がいて 俺がいる
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空を見上げれば不自然な黒い点。
願いを叶えてくれる城は今日も何事もなく宙を漂っている。
今は真夜中だが、今宵は新月。
月の城の戦いも今日だけは強制的に休戦となり、兵達はそれぞれ思い思いの刻を過ごしていた。
毎日血生臭い戦場にいるだけに、多少なりとも息抜きにはなるこの刻を。


二ヵ月程前に来た旅の客人は、二人して明かりのない薄暗い部屋にいた。
先程まで宴会の席にいたが、招かれた女郎達の香水の匂いにやられ、一人が体調不良を訴えたのだ。
そしてもう一人の連れが顔色が悪いのに気付き、付き合って看病している。
二人の旅人は国に居座るようになって直ぐ様その力を認められた。
城に特別に部屋を設けられたのも彼らの実力を見れば当然で。
宴の席さえこの国の王が座る場所に近いのだ、誰だってお近付きになりたいだろう。

「だいじょぶ?」

聞きかじりの言葉で尋ねられるが、今の状況は決して大丈夫とは言えない。
目の前の彼は確かに自分の看病をしてくれていたはずなのに、気付けば組み敷かれている体勢だ。
看病の意味が違うと怒りたかったが、黒鋼の口から出てきたのはいつもと違った、艶のある喘ぎ声。
それを聞いてファイは怪しげな笑顔を一層深くする。


それでも彼らが王以外の者にあまり接触しないのは、面倒な事に巻き込まれるのが嫌だからというのもある。
どうせ何時か、探している仲間が見つかれば此処を離れる身。必要以上に住みやすさを覚えれば執着して離れられなくなる。
しかしそれは付け加えの理由にすぎない。
この地に骨を埋めたらという相談の下、散々女を紹介されたが興味を一切持たなかったのは、二人が既に「恋仲」だったから。
勿論その事実は現在傍にいない仲間の他に知る者は皆無である。

「んぁ…は、あ」

もし誰かが気付いたとしても、この役割だけはきっと想像だにしないだろう。
見た目なら、明らかに逆。
現に敷かれている本人も、初めて押し倒された時は思わず叫んでしまった程だ。
あべこべだと。

「ンッ!ぁ、そこは…んぅ!」

気分が悪いというのも忘れ、あまりにもの気持ち好さに虜になっていく。
戦の際に光る血も涙もない冷たい瞳、今だけは熱に揺れ、うっすらと涙を溜めていた。
首元に埋められている相手の顔は伺えず、その代わり細い金糸を指に絡めて頭を抱くような形になる。
手はまさぐるようにして躯中を這い、繋がっている部分からは動く度に卑猥な水音。
上ってきた舌が耳裏を舐めてビクッと反応した。

「クロガネ、かわいー」

「うっせ……ひゃっ!」

名前を呼ばれた事と、可愛いと言われた事に赤くなるが苦情を言う暇はない。
ナカで擦れる彼自身が黒鋼の呼吸を乱し、快楽を与え、喘がせてくるのだ。理性さえ、もはや数分前に掻き消されている。
だから今は、ファイにしがみついてこの行為を受け止めるのがやっと。

「あ、あ!は…ファイッ!」

「なにー?」

「ソコ、さっきから、同じとこばっか…ひゃあ!!」

「ΨαμДδー」

訴えても何事か囁き、楽しそうに彼を貪り続けるだけ。
一応の病人を抱くファイは、至極幸せそうに見える反面腹黒さも持ち合わせていた。
黒鋼の嫌がる部分へ自分をしつこくぶつけ、辛そうに乱れる相手を笑顔で見下ろしている。
前髪を掻き上げ、額にキスを落とし。目頭に溜まった水滴を舐め上げ、顎を掬うと噛み付くように口付け。
きっと自分の手によって黒鋼があられもない姿になっているのが、非常に滑稽で幸福なのだろう。
苛めるその手は、止まらない。

「ッ、はあ、ア…!」

「かわいー、フフッ」

「んぁッ!わ、らう、な…!」

必死に絞り出した言葉は震えていた。
相変わらずくすくす笑って、頬に鼻頭をひっつけてくる彼に小さく呻きながら、律動が激しくなればそれも嬌声へと変わる。
別の意味で頭がくらくらしてくる。目の前が薄れる。
だが、いつまでも自分を見下ろし笑っているその顔は、しっかり記憶に刻み込んだ。





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