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□愛しいが為に堕落してU
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『夜遅くにごめんねー、寝てた?』
「…いや、今風呂から上がってきたとこだ」
『そっか、良かったー』
「何か用か?」
『黒ちゃんの声が聞きたかっただけー。ダメだった?』
「………いや」

嬉しそうに無駄に口を動かす相手に、携帯越しで口元を緩めた。
初めはうざったらしかったその口調が今では落ち着く。

『って、ごめん。俺ばっかり喋ってたね』
「何時もの事だろうが」
『だって黒ちゃんいつも相鎚してくれるだけだもん』
「嫌か?」
『んーん。そんな無口なとこも大好き』
「……勝手に言ってろ」
『あはは、そうしとく』

短い会話をして「それじゃあ」と互いに電話を切る。
ほんの一時の、何気ない会話。
それだけで黒鋼は幸福を感じていられたが、今はそれ以上に別の感情が根強く花を咲かせていた。

「楽しそうでしたね」

不意に声をかけられ身を強ばらせると、瞳をきつくしながらも恐怖を浮かばせる。
振り向けば黒鋼の後に浴室へ入った筈の星史郎が、躯に水滴の一つも付けていないままいつもの笑顔でそこに立っていた。

「貴方も案外器用なんですね。まだばれていないのですか?」
「………」

質問を無言で返すが星史郎は気にしていない様子。
距離を縮めて黒鋼に近付くと、それに合わせて後退していたがベッドサイドにぶつかりそのまま尻餅をついてしまった彼をベッドに押し倒す。
抵抗できないよう携帯を握ったままの腕は顔の横に押さえ付け、着直した学生用のカッターシャツを脱がしていった。

「ばれてない、という事は、コレをまだ見られていないんですね」

口角を上げて見下ろす黒鋼の躯には、無数の赤い跡。
勿論嫌がる彼を啼かせながら無理矢理星史郎が付けたモノだ。
新しく出来たモノから薄くなって治りかけているモノまで、数限りなく残っている。
黒鋼にとってはそんなもの、不愉快を通り越して気分が悪くなるだけだというのに。

「非常に残念です」
「どういう意味だ」
「早く別れれば良いのに、という意味で」

その一言で頭に血が上り、気付いた時には重く、鈍い音が薄暗い部屋に響いた。
空いていた手は拳を作っていて、上にいた星史郎は口端を切ったようでそこから血を滲ませていた。
しかし怪我をさせた事を気にする余裕はなく、再度向けられたオッドアイに躯中が一瞬冷えきる。

「まだ、調教が身に染みていないようですね」

薄い笑顔にあるのは残虐な感情のみ。
そして突然黒鋼の携帯を奪ったかと思うと、勝手に開いて操作し始めた。
嫌な予感がして、上から退く星史郎から直ぐ様身を起こして奪い返そうとしたが、鳩尾を不意打ちで殴られる。
その隙に今度は強引に床へ俯せに押し倒され、両腕とも片手で背後に束縛されてしまった。

「これ以上僕の機嫌を損ねると危ないですよ」

咳き込みながらも後ろを睨んでくる黒鋼にそう言うと、彼の目の前に携帯のディスプレイを見せる。
画面にはファイの名前と電話番号が表記されていて、あとボタン一つ押せばいつでも繋がってしまう状態。

「曝してしまいましょうか?他の男に組み敷かれている君の啼き声を」
「ッ!」

黒鋼の躯が強ばったのを確認し、星史郎は満足そうに目を細めた。
彼の上から退いても抵抗する意志は見せず、ゆっくり起き上がりながら悔しげに歯を食い縛るばかり。

「良い子ですね」

固めの髪を軽く撫でるとベッドサイドに腰を下ろす星史郎。
携帯は未だ彼の手中で。
床に座り込んでいる黒鋼を手招きすると、無表情で大人しく傍に寄ってきた彼の腰を引き寄せ、その躯にまた新しい烙印を付けた。

「それではまず、昨日のおさらいからしましょうか」

ニコリ、下から微笑む星史郎を感情を含まない瞳で見つめる。
そして躯を無理矢理動かして彼の両頬を包み込むと、静かに黒鋼からその唇に、キスを落とした。








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