遥かなる時空の想い
□星さえ知らぬ
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「忍人さんて…」
夜空を眺めていたオレに話し掛けてきたのはつい最近この世界に舞い戻った少女だった。
「忍人さんて、なんて言うか…ツンデレですよね」
「…は?」
聞き慣れない言葉の響きにオレは眉をひそめた。
「あ、すみません。こっちの世界にはこの言葉、無いんでしたね」
謝りながらにっこりと笑って彼女は言葉を続けた。
「ツンデレっていうのはですね、簡単に言えば『素直じゃない』って意味なんです」
「素直じゃ…ない?」
思考が追い付いてこない。
何故それを今指摘されなくてはならないのだろうか。
「何故、今そのようなことを?」
「別に、今じゃなくてもよかったんですけど」
彼女はふと視線を空に向け、
「手に入れたいものが目の前にあるのに手を伸ばすことを躊躇するなんて、馬鹿らしいとは思いませんか?例え、それが手に入らないものだとしても」
「……」
彼女は何が言いたいのだろうか?
要するにオレが馬鹿だと?
「何が言いたいのかわかりかねるが?」
「そうですか?それなら聞き流して下さい」
笑みを深くしてそんなことを言う彼女にある男が被って見えた。
「君は最近、柊に似てきたんじゃないか?」
「そうですか?それはよかった」
彼女はそう言ってオレの耳元で一言呟いた。
「なっ…!」
「頑張って下さいね」
彼女が鳥船の中に戻るのを唖然と見送りながら、彼女の言葉が頭を離れない。
『柊ほど貴方に好かれることができたらいいんですけど』
「…っ!」
不覚にも動揺を見せてしまった。
彼女を甘く見ていた。
彼女は仮にも王の器だったのだ。
(オレの心の内など見透している…か。不覚を取ったな)
気づいていても風早か師君くらいだろうと思っていた。
彼女がしたように空を見上げる。
いくつもの星が忌々しいあの男を嫌でも思い出させる。
「何故…あんな裏切り者を…」