豊葦原へ

□プロローグ
2ページ/2ページ




「なんだ?この感覚」

不思議な気配がする。
荒魂ではない、と思う。
この気配は…何故かオレに似ている気がした。


「オレに、似ている…?」
不意に頭に浮かぶ考えがあった。

(白龍にオレがいるように、黒龍にも…)


考えているよりも直接会いに行った方が早いだろう、そう判断して天鳥船を出た。
なんとなく位置は掴める。
その方向に足を進めようとして、


「どうした?」

「…忍人?」

忍人に声をかけられた。


内心、少し焦った。
これから会いに行く相手が敵でないとは限らない。
忍人を連れて行けば、相手が敵だった場合迷わず破魂刀を使うだろう。
それは避けたい。


「珍しいな、忍人から声かけてくるなんて」

平静を装って会話を進める。

「ああ、お前にしてはやけに真剣に何か考えているようだったからな」

無表情だけど、どうやら心配してくれているらしい。
やっぱいい奴だよな、忍人は。

「酷いなー、オレはいつだって真面目だぜ?特に忍人のことについては」

どうしよ、忍人と話すのは楽しいから離れ難くはあるんだけど…できれば巻き込みたくないんだよな…。


「お前は…いい加減そう誰彼と口説きだす癖を改めたらどうだ?」

予想通りの呆れ顔で返される。
本気なんだけどね。

曖昧な笑みを作って見せ、さて、と忍人を上手く誤魔化す方法を探す。



「外に出て行った柊に用があってさ」

さっき柊が出て行ったのを見たのを思い出して使わせてもらう事にした。
まあ、気配は柊の方に向かってるし、嘘ではないよな。


「柊に…?こんな夜更けにか」

柊の名を出した途端、あからさまに嫌そうな顔をされる。
仲悪いもんなぁ…まぁ、忍人が一方的に怒ってるんだけど。


「ああ、ちょっと岩長姫からの伝言があってさ、今晩中に伝えたほうがいいかと思って」

まぁ、これは嘘なんだけど。

(忍人は柊の名前出せば大体巻けるしな)


オレは心の中で岩長姫と柊に謝りながら、怪訝そうな顔をしている忍人に手を振り、先程の気配の方向へ足を進めた。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ