いろいろ

□真宵様
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春。

入学式を終え、桜の花も散り、もうすぐ五月を迎えようとしている今日この頃。

昔から体が弱く保健室にお世話になる回数が多い私としては、この春で保健室の先生が離任してしまったことが気にかかっていた。

高校での生活も2年目となり、1年の間に随分とお世話になった先生がいなくなるのは寂しい。

代わりに着任した先生は25歳と若く、美形だと女の子たちの間で噂になっていた。

そのためか昼休みの度に保健室を訪れる女の子も少なくない。

そんな中、奇跡的に今年はここまで体調を崩さずにいられたため、保健室にはお世話になっていなかったのだが、ついに体調を崩してしまった。

朝からだるいとは思っていたが、熱はなかったから学校に来てしまったのが間違いだったようで、時間を追うごとに段々悪化していくばかりだ。

今まで授業を受けていたものの、ついに限界を感じ、1階にある保健室までの廊下をゆっくりと歩いていた。

見慣れた扉の前で立ち止まり、そっと扉を開く。


「失礼しまーす…。」


扉を開けたらそこは植物園でした…、とまではいかないものの緑が溢れていた。

その植物に水をあげている白衣姿の男性。

長身で細身、かけている眼鏡が煌びやかな顔を少し知的にみせていた。


「どないした?具合悪なった?」

「あ、はい。ちょっとベッド貸していただいてもよろしいですか?」

「おん。あ、その前にここに名前書いといてな。」


これなら女の子たちが騒ぎ立てるのも納得できるな、と思わせるルックス。

おまけに落ち着いた優しい声で発せられる関西弁。

方言というものは聞き慣れていない私たちには十分な魅力をもって聞こえるのだ。

書き終わった紙を机に戻し、ベッドをセットしてくれている先生に声をかける。


「白石先生、ここに置いておきますね。」

「おおきに。こっちのベッド使ってええで。」

「ありがとうございます。」


カーテンを閉めて冷たいベッドに横になる。

横になっていた方が幾分楽な気がする。


「名字さん、ちょお開けるで?」

「あ、はい。」


閉められていたカーテンを少し開けこちらに歩み寄ってくる。

上体を起こそうとすると、寝たままでいいと止められた。

先程記入した紙を手にベッド脇にある椅子に腰を下ろす。

間近で見ると余計にかっこよく見えるなぁ、などと考えてしまう。

そのまま目を合わせたままぼーっとしていると、覗き込むように顔が近付いてくる。

明らかにおかしいくらいに近くなり、どうしたらいいかわからず硬直しているとコツンと額に何かが当たる感覚と鼻と鼻がくっつきそうなほどに近くなった白石先生の顔が合った。

あまりに顔の近さに思わず息が止まってしまう。


「…少し熱ありそうやなぁ。顔真っ赤やけど大丈夫か?」

「えっ、あ、大丈夫です…。」

「ほんまに可愛えなぁ…。でも、あんまり無理したらアカンで?」


息をするのも忘れるほどに見惚れていたなんて言えるわけがない!

先生に聞こえるのではないかと思うくらいに心臓が大きな音を立てていた。


「名字さんのこと、前にこの学校におった木原先生に聞いとったんや。体が弱くて保健室にくることも多いからって…。でも、こんな可愛いらしい子やとは思わんかったわ。」


そういってクスリと微笑む先生の顔にまたもや見惚れてしまう。

顔が熱くなっていくのを感じた。


「後でまた様子見に来るさかい寝とってもええで?」


さらりと頭を優しく撫でてから、背を向け外との仕切りとなっているカーテンを開けて出ていった。

額で熱を測られ、優しく頭を撫でられ、寝るどころの話ではなくなってしまった。

それどころか余計に悪化した気がする。

ガンガンと響く頭の中は白石先生のことでいっぱいになっていた。



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