いろいろ

□雛璃様
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「おい!お前ら聞いたかよぃ!?」

「何じゃブンちゃん。騒がしいのぉ…」

「先輩、どうしたんスか?」


放課後、部活前の部室にはR陣が集まっていた。

部室のドアが勢いよく開くと同時に焦った顔のブン太が飛び込んできた。


「いや、俺も今聞いたんだけどよ…」

「何だ、勿体ぶらずに話せ」

「いや、だから…、――――だって…」

「聞こえんぞ。はっきり話さんか」


言いづらそうにボソボソと話すブン太。

部室にいる、幸村と名前以外はみんな頭に「?」を浮かべていた。


「そんなに言いづらいことなのかよ?」

「あー…。…名前に彼氏ができたんだってよ」


一瞬ためらったものの、意を決し本題を口にした。

ブン太の口から放たれた言葉に、部室内の空気は固まった。

何でも知っていそうな柳までもが固まっていた。


「ブ、ブンちゃん、何の冗談じゃ?」

「そ、そうっスよ!!名前先輩に彼氏なんて…」

「そ、そのようなこと、俺のデータにはないぞ…」

「み、皆さん動揺しすぎですよ」

「そうだぞ、お、落ちつけよ…」


口々に言葉を発する
ものの、全員動揺のしすぎで何を言っているのか分からないほどだった。

真田に至っては、何も発さずにただただ固まっていた。


「でもよぉ…、名前と仲良いやつらが言ってたんだぜ?」

「名前ちゃんに彼氏なんて…、そんなの俺は絶対信じないぜよ!」

「私もあまり信じたくはありませんね…」


仁王と柳生の言葉に全員が頷く。

今の関係を壊したくないがため、今まで必死に想いを抑えてきたというのに。


「このことが万が一精市の耳にでも入ろうものなら…」


柳の一言に全員の顔から血の気が引き、真っ青になる。

今まで硬直していた真田もいつの間にか元に戻り、一緒になって顔を真っ青にした。


「ちょっとちょっと、どうするんスか!?俺、八つ当たりされんのイヤっスよ!!」

「この場合は言い出しっぺの法則じゃな」

「おいっ、待て!この場合言い出しっぺって俺じゃんか!!」

「丸井、今までお前とテニスが出来て楽しかったぞ」


仁王の言い出した「言い出しっぺの法則」に最終的には柳までが乗っかる始末。


「む…。そう言えば精市と名前はどうしたのだ?」

「あぁ、幸村君なら少し屋上
庭園に寄ってから来ると言っていましたよ」

「名前は委員会の仕事があるから今日は少し遅れるらしい」


真田の問いに柳生とジャッカルが答える。

幸村が屋上庭園に寄るとなるともうすぐ帰ってくるのではないだろうか。

誰もが思った瞬間に、そのときは訪れた。

ゆっくりと開いた扉から、少し高めなアルトボイスが聞こえてきた。


「あれ?みんなして何してるの?」

「や、やぁ精市、もう屋上庭園の方はいいのか?」

「あぁ、その用は済んだけど…。柳、何か変だなぁ」

「そ、そんなことはない。いつも通りだ。な、なぁ?」


柳がみんなの方を向き問いかけると、必死になって首を縦に振るみんなの姿が見られた。


「あ、そう言えば名前だけど…」


名前の名前がでた瞬間に全員がビクッと肩を揺らした。


「そ、それで名前がどうかしたのか?」

「委員会で少し遅れるらしいよ」

「そ、そうか…」

「何かみんな変だなぁ」


誰も幸村とは目を合わせようとせず、出来るだけ自然な動きを意識しながら着替えを始めた。

実際、自然な動きなど幸村を除き、誰も出来てはいなかった。
着替えが終わり、練習をするため外に出ようとラケットを掴んだとき、外からドアノブが回された。


「遅くなりましたー」

「っ、名前!!」

「ん?どうしたの、ブン太」

「い、いや。何でもないぜ…」

ブン太の異常な反応に、みんなが冷や汗をかきながらスルーしてくれと心の底から願っていた。


「あ、そういえばさ、みんなに報告するわ」

「名前ちゃんっ!!」

「彼氏できた」


仁王の叫びは虚しくも名前には届かなかった。

そして名前の発言を聞き、一斉に幸村の方を盗み見た。

そのときの幸村の顔は無表情だった。

誰もが死を覚悟した瞬間、幸村の顔は、まさに天使のごとく綺麗な笑顔へと変わった。

その瞬間をバッチリと見てしまったみんなは全く状況が掴めないといった顔をしていた。


「そうなんだ。今日から名前は俺の彼女だから。手出したら分かってるよね?」


それはそれは素晴らしい笑みで幸村様は仰いました。


しかし誰も予想しなかった展開に頭がついていかなかった。

しばらくの間、そのまま硬直していたR陣。

彼らの恋は我等が部長、幸村精市によって、いとも簡単に壊されてしまいましたとさ。
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