UnificationGame

□01.
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微かに川の流れる音が聞こえる薄暗い小屋の中、小さな明かりから作りだされた2つの影。

数刻前から遠くの方が騒がしくなり始め、その2つの影に彼らの到着を知らせた。

今では足音がだいぶ近づいてきている。

足音は2つ。

1つはきっと彼の足音。

もう1つは…。


「大王…。」

「あぁ、来たようだな。」

「それでは私は裏へ。招かざる客もいるようなのでご注意を。」

「わかっている。そう心配することはない。」


2つの影。

その正体は、秦王嬴政とその側近の蒼であった。

嬴政を小屋へ残したまま蒼は小屋の裏へとまわった。

しばらくして足音は小屋の前で止まると勢いよく小屋にかかる幕を払った。

続けてカラーンと木刀の落ちる音。

そして…。


「漂!!?」

「………。」


少年の大きな声。


「………漂?」

「………、違う、政だ。」


絞り出されたような震えた少年の声とは対称的に凛とした声ではっきりと告げられた名前。

それはそうだ。

ただでさえ間違えても仕方がないほどに似ているものを、この薄暗い小屋の中で見分けることは至難の業。

ましてや漂の死を受け入れたくないであろう少年は少しの希望にも縋りたくなるはずだ。


「政?………。」

「………、お前が信か。」

「!!なんで俺の名をっ…。」


もう1つの足音が近づく。

少年、信とは別の招かざる客の足音が。

近づく。

静かに。

近づく。

近づく。


「………、説明する暇は無さそうだ。」


大声で質問攻めにされていたにも関わらず、外の気配に気付いた大王。

それでいて冷静沈着。

まるで焦る様子を見せないその裏にはいくつもの修羅場をくぐってきた様子が見受けられた。

そしてたったの一刀で小屋は崩れ落ちた。

どうやら信も無事に避けられたらしい。

もちろん大王も掠り傷一つない。


「もはや逃がさぬ。命をもらうぞ、秦王嬴政。」

「!?」

「…大王。」

「蒼か。」

「ハッ。ご無事でなによりです。」


小屋の裏から大王の後ろへと移動する。

秦王の名を聞いて事の次第を理解し始めた信が叫びだした。

漂から聞いてはいたが、あまりの漂とのギャップに少し驚いた。

漂は落ち着いていて、かつ頭もキレて、指揮力や武力も申し分なかった。

だが信は武力は漂に勝るとも劣らないものの、頭の方はからきしなようだ。


「お前が王で!!お前が刺客!!」


秦王と知ってなお、お前呼びとは…。

大王ですら少し飽きれた様子が見受けられる。

そして少し、本当に少しだけ口の端があがった。

これは絶対に「俺のことを秦王と知っていながらお前と呼ぶやつがお前以外にもいたとはな。」という顔だ。

証拠に視線をこちらに向けやがった。

そう、私も大王を「お前」と呼んだ不届きものなのだ。

そんなやつらを許してしまうところも王族とは思えないと常々思う。

やはり今までみてきた人たちとは何かが違う。


「お前は弟の反乱を知っていたな!だから漂を身代わりにしてこんなところに逃げ隠れていた!漂が襲われると知っていながら身代わりにしたんだ!!」

「………その通りだ。」

「てんめぇぇぇ。」


信の言うとおり。

漂は大王の身代わりにされた。

あの日、昌文君に身請けられた時から。

漂にも否定することは出来た。

おそらく大王のことだ。

こちら側の勝手を半ば押し付けるようなことをしておいて殺すなど理不尽極まりないことはしないはずだ。

そして死のリスクも話した。

それでも漂は頷いた。

友との、信との夢への足がかりとして死の覚悟を抱きながら大王の影武者となった。


「ククク、なんだ小僧は王の配下ではないのか。王を殺すなら譲ってやるぞ。首は俺が頂くがな。」

「ああ殺す。ぶっ殺してやる。だけどその前にお前だ。漂を殺したお前の腹ワタ引きずり出してやる!!」

「…お前らに政の首はやんねえよ。」

「フッ、蒼が俺の隣を離れない限り、俺の首は繋がっていそうだな。」

「あ、聞こえちゃった?」

「あぁ、一字一句聞き逃さなかった。」


ボソッと誰にも聞こえないように言ったはずの言葉だったが、どうやら大王には聞えてしまったようだ。

ふざけたような会話をしているとはいえ、顔は真剣な面持ちのまま、信と刺客である朱凶に向けられたままである。

真剣な面持ちというよりは無表情と言った方がよいのかもしれないが。

信と朱凶の剣がぶつかり金属音が響く。

剣と剣とがぶつかり合う音。

見ているだけだというのに内から溢れ出る焦燥感に類似した感覚。

今のところ状況は朱凶優勢のように見受けられる。


「がっ!くっ!」


信の剣はすべて受けられ、跳ね返されていた。

確かに漂より伸び幅は上のようだ。

ぜひとも手合せしたくなる。


「だが!!五年早かったな!!!」

「うわぁっ。」

「しっ。あちょっ。」


朱凶の剣を剣で受けてはいたものの、その後放たれた足からの一撃を避けられず、凄まじい音とともに小屋だったものに突っ込んだ。


「う、うぅ。」

「ほお、まだ息があるか。だがもう立てまい。」

「………。」

「あれで息があるなんて、ずいぶんと丈夫な子だね。僕だったら生きてないよ。」

「お前はそんなヘマしないだろう。」

「嫌だなぁ。僕だって人間だよ?」

「そういう意味ではない。」

「フフッ、わかってるって。だけどそんなに過信されても、それに見合うことなんて僕できないよ?」

「過信などしていない。今までの働きを見れば当然のことだ。」


朱凶は完全に気が切れたと思っているはずだ。

実際にもうギリギリのところだろう。

きっと立ち上がるのが精一杯。

剣を振ることは難しいはずだ。

今のままならば…。


「信。何も考えるな。ただ―――、漂の無念を晴らすことだけを考えろ。」

「………お…、お前が漂の名を口にすんじゃねェ!!」

「立った…。」


朱凶も吃驚したであろう。

まさか立つなんて考えてもいなかっただろうから。

しかし、さすが大王。

あの状態の信を先程のように、いや、先程以上に奮い立たせるとは。


「…くそっ…、死んじまったじゃねェか。あいつはもう…、生き返らないんだぞ!!!」


剣の交わる金属音。

明らかに変わった信の一撃。


「クソォォォッ。」


脳裏に浮かぶ漂の言葉が重なる。

あの何もかもを見透かすような綺麗な瞳でどこか遠くを見つめるように、信と過ごした日々を思い出すように、しかしはっきりと…。

『本当に強いですよ、信は!!』

そしてどこか誇らしげに…。

『大王様、もしも私が倒れた時は信におつかまり下さい。あいつはきっと、』


朱凶と剣を交えていた信は切りつ切られつつの攻防を繰り返していた。

しかし今度は信が優勢かのように見えていた。

そして頭に血が上った朱凶の一撃。

それを信は交わした。


『誰よりも高翔ぶ!!!』


漂の言葉どおり、大柄な朱凶の頭より高くとんで最後の一撃を浴びせた。



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