LoveGame

□06.
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みんなが去った後、部室には護と嶋野だけが残っていた。


「嶋野さん…、大丈夫?」

「護くん…」


先程一番はじめに部室に入り、唯一嶋野に声をかけた護が部室に残ったことにご満悦の嶋野。

更に自分を心配してくれていると思っている。

もちろん嶋野を心配するものなど、誰一人として存在しているわけがないのだが。


「護くん、愛華のことぉ、心配してくれたのぉ…?ありがとぉ」

「何があったのか教えてくれるかな?」

「あのぉ…、えっとぉ…」


必死に泣き真似をしながら護に話しかける。

自分がドリンクを作っていたところで、想に水をかけられて、想は自分で自分にドリンクをかけた、と。

もちろん護は真実を知っている。

嶋野が嘘を付いていることも、本当は泣いていないことも分かっている。

だが、ここは想のため、自分に出来る最高の演技をする。


「そうだったんだ…」

「護くんはぁ、愛華のことぉ、信じてくれるのぉ?」

「もちろんだよ」

「ありがとぉ…」


今まで俯いていた顔を上げ、護の方を向くと上目遣いをし、笑顔を向けた。

その顔は、かけられた水により化粧
が崩れ、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。

しかし、そのことには全く気付いていない嶋野は相変わらず護を見上げたまま口を開いた。


「あのぉ、護くんっ!愛華のことぉ…、えっとぉ…、愛華って呼んでくれないかなぁ?」

「嶋野さんじゃなくてってこと?いいの?」

「うんっ。護くんにはぁ、愛華って呼んでほしいなぁ…」


精一杯目を潤ませ懇願するように護に縋るような目線を送る。

「じゃあ今度からは、愛華ちゃんって呼ばせてもらうね」

「えぇ〜、愛華でいいのにぃ」

「ごめんね、恥ずかしくて…」

「もぉ、護くんったらぁ〜」


全く心にもない言葉がスラスラと口から吐き出される。

少しの苦笑いと赤面をすることも忘れずに、俳優さながらの演技をする。

どこにも疑う余地のない完璧な笑顔を向け、嶋野を口説きにかかる。

今日の練習は特別に出なくてもいいということになっている。

時間を気にせずに出来るため、いつもより遥かに気が楽だ。

今日の目的は、嶋野を護に惚れさせること。

護が失敗した時点で、この作戦は上手くいかなくなるどころか、全く意味をなさないものになってしまう。

それ程、今回も護の役割は重要なのだ。


しかし、それほどまでに重要な役割を任せられるのも、過去の目的達成率が100%であるという確かな実績と、信頼関係があるからである。

そして並外れた演技力。

テニス部には演技派がたくさんいるが、その中でも群を抜いた実力を持っていた。

いくら演技の上手い仁王でも勝てぬほどに。

ただ1人、実姉である想を除いて、護の右にでるものはいなかった。



計画通り、少し話しをしていたら、容易く目的は達成された。

嶋野は今、護からもてはやされて気分は有頂天であろう。

ここまできたら後は想の考え通りに事を進めるのみである。



後は計画通り堕とすだけ…。



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