世界とISと名もなき者へ

□世界とISと名もなき者へ
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225 思いではアルバムの中



束は懐かしむ様に本棚から、アルバムを引き出す。

静かにアルバムのページをめくると、そこには幼いころの一夏や箒。

束と一緒に映ったリリィ。

リリィに料理を教わっている千冬や一夏。

家の中を掃除するリリィ。

剣を振るう千冬。

白騎士とフリーダムが戦っている状況。

リリィに向かって恨めしそうな目で見ている箒。

楽しそうに笑う束。

スライムに似た食べ物を持った一夏。

色々あった思い出が、アルバムに一枚一枚貼り付けられていた。

リリィは少しだけ微笑むと、それらを見る。

「……あの頃は、さ。」

束が唐突に喋り始めた。

もちろん、その言葉を遮るほど無粋な事はしない。

「皆笑っていられたよね……。」

そう言って、アルバムを捲りある一枚の写真をカバー上から触れる。

真中に一夏と箒。

一夏側の端には千冬、箒側の方には束とリリィが映っている写真だ。

その写真の中にいる全員の顔が笑っており、楽しそうだった。

「……私は……、……ISを作って私と言う存在を、世界に知らしめようとした……。」

また一枚、アルバムを捲る。

「けど、ね。 ISを作る前にね……。」

アルバムを閉じると、静かに本棚に戻した。

「……もし。 もしもだよ……、作る前にリリィちゃんと出会えていたら……。 私はISを作る事はしなかったのかな……?」

束はそう言うと、苦笑いしながらリリィの方へ振りかえる。

「……後悔してるの?」

リリィの言葉に束は少しだけ考え、首を横に振る。

「束さんに〜、後悔や失敗、反省、馬鹿なんて文字はないんだよ〜♪」

少しだけいつもの束に戻ると、リリィは少しだけ息を吐く。

部屋の中を見渡して、ゆっくり口を開く。

「……結局、今が一番ってことだね。」

「……うん!」

少しだけ元気になった。

「……誰かいるのかしら?」

すると突然部屋の外から声が聞こえた。

一瞬今住んでいる人だと思ったけど、先ほど自身でそれを否定したし、束の部屋がそのままの状態で残っていることからあり得ない事だと、再度確認する。

廊下から、足音が濃血に向かって近づいてくるのが理解出来た。

少しだけ苦笑いをして、束の表情を見る。

どうやら、束も同じ事を思っていたのか表情が硬かった。

「……あら?」

そして相手いるドアから、女性が顔をのぞかせる。

四十代後半だろうか、微妙に小皺があるように見えた。

だが、そう思う前に束は目を見開かせて口を開く。

「雪子叔母さん……。」

懐かしそうに女性に向かってそう言う。

「もしかして……、束ちゃん?」

女性も女性で、信じられないと言う表情で束を見ていた。

そんな中リリィだけは、首を傾げてその光景を見る。

「束ちゃんっ!!」

女性はそう言うと、束に近づき手を握る。

泣きそうな声で束の名を何回も呼び、嬉しそうに束を見た。

対する束は、どうしたらいいのか悩んでいる。

助けて欲しいのか時折リリィの方を見るが、リリィもどうしたらいいのか分からないため、どうする事も出来ないでいた。

少しして、女性が落ち着くとリリィは「誰?」と束に聞いた。

「私は近所に住んでる雪子って言うのよ。」

女性がリリィの言葉を聞いていたらしく、自己紹介を始めた。

リリィも「あ、ご丁寧に……。」と言って頭を下げる。

物腰が柔らかそうな女性、雪子は笑顔でリリィを見ていた。

自己紹介されたのなら、自己紹介しないといけないと言うのは礼儀。

リリィも簡潔に自己紹介をするため、口を開く。

「私は篠ノ之束の夫、篠ノ之リリィと申します。」

そう笑顔で言った。

もちろん、雪子は目を丸くして「え?」と聞き返す。

おそらく「夫」と言う単語と外見が一致しないのだろう。

リリィはいつも通りに、自身が男だと雪子に証明した。
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