世界とISと名もなき者へ

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224 篠ノ之家



「なつかし〜ね〜☆」

束がある場所を見つめ、そう言った。

目線の先には、束が言った通りに懐かしい物がある。

「……束にとってみれば、「久しぶり」か「ただいま」じゃないのかな?」

「どっちでもいいよ。」

そう言ってリリィと束はそれを見た。

目線の先には家、その近くには神社が見える。

そう、篠ノ之神社だ。

今リリィ達がいる場所は、旧篠ノ之家玄関前。

初めてお互いを大切だと認識した場所だった。

今では篠ノ之性の人物は誰も住んでおらず、おそらく空き家なのだろう。

神社の方は清掃されており、誰かが定期的に着ている事が分かる。

板張りの剣術道場は、昔と変わらずの形をしたままだった。

「……気になる?」

束の視線が、篠ノ之家のある場所へ向く。

リリィもその視線につられ、その方向を見る。

そして束とリリィは、ある光景を思い出していた。

女性っぽい部屋だけど、いたるところに機械とかが錯乱している場所。

束の部屋。

おそらく十年間に、国の学者が何十人も入ったと思われる場所。

他人に触れて欲しくはないと束が思っていた場所だ。

「……入っちゃおうか。」

束がそう言うと、玄関に近づく。

「いいのかな……?」

そう思いながらリリィはあたりを見た。

IS登場前に作られた家だけあって、ガスのメーターなどがデジタル式ではなくクランク軸でカウンターを動かすアナログ式。

そのためカウンターが止まっているかいないかで、住んでいるかどうかが分かる。

ちなみに、カウンターは完全に止まっていた。

(……やっぱり、誰もいないんだ……。)

リリィはそう思いながら、束に近づく。

ISを作った人物の家を、他の誰かに使わせると言う事は政府はしないだろう。

当たり前のことなのに、どこかさびしい気持ちになった。

(……あれ?)

しかし突然、カウンターが動き出した。

普通ならカウンターが止まると言う事は、住んでいないということと同義なのだ。

「リリィちゃん〜?」

突然動きだしたカウンターを不思議そうに見た後、リリィはゆっくりと家の中に入って行った。

ドアをくぐり、家の中に入ると意外な光景が目に入る。

「……清掃……されてるね……。」

リリィがそう言うと、束が靴を脱いで上がった。

「……。」

束は何も言わないが、かなり驚いているのだろうか。

かなり首を動かして状況を見る。

昔とは違うが、篠ノ之家と分かる様な感じだった。

靴棚や傘立てを始めとする生活用品は、おそらく引っ越しの際に持ちだしたのだろう。

だが、それ以外。

必要ないと思ったものは、意外にもまだ使用されている。

「誰かが手入れをしてくれていたんだろ〜ね〜。」

束は自室に向かって歩き出す。

長い年月放置されていたはずの廊下にはそれほど埃がたまっておらず、今にも誰かが返ってきそうな家事がする。

そして束があるドアの前で止まった。

二人は何も言わないが、もともと住んでいた束はもちろんのこと、リリィも何の部屋かは理解している。

外から見ていた場所。

束の部屋だった場所だ。

「……。」

少しだけそのドアを眺めると、息を吐きながらドアを開けた。

束の後ろからリリィは中を見る。

「……変わって、ないね……。」

そう言っても良いほどに、その部屋は変わってはいなかった。

十年前と同じ状態を保ち、寝具やノート。

本棚や机なんかが、当たり前のようにそこにあった。

「ん、変わってはいるんだけどね……。」

そう言って束は部屋に入り、部屋の至るところから小型マイクを見つけ出す。

マイクは盗聴器で、おそらく戻ってくる可能性を考えた国が置いて行ったものだろう。

それをレイジングハートを部分展開させ、完全に破壊する。

束は懐かしみながら「ただいま」と、部屋に向かって言った。
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