宝物

□貴方がいてくれて
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「あ、コタツ!」
「あかねが好きだと言っていたから、買ってみた」
「え、私のためですか?」
「ああ。だが、私もすっかり気に入ってしまった。最近はソファーよりもこちらで過ごす方が多い」
試験があったからなかなか会えなくて、一週間ぶりに季史さんのマンションを訪ねた。すると、今の真ん中にどんっとコタツがあって。大きなソファーは脇に除けられている。
「あの、入ってもいいですか?」
 上目遣いに聞いてみれば季史さんは笑顔で頷いた。
「ああ。さっき電源を入れておいたから暖まっていると思う」
「わ、ホントだ……ぬくぬくー」
 足を入れると暖かい空気が直に感じられた。このファンヒーターと違う暖かさが私は好きだった。
「私の家には掘ごたつがあるんですよ」
「掘ごたつ?」
「はい。床が掘り下げてあって、底にヒーターみたいな機械を置くんです。椅子に座るみたいな感じなんですよ」
「ほう、それは楽そうだな」
「そうですね。でも、私はこっちの方が好き」
この机に機械がくっついてるタイプの方が。
「どうしてだ?」
季史さんがお湯を沸かしながら尋ねる。私はコタツに潜り込みながらこっそり微笑む。
「おばあちゃんの家にあるのがこのタイプなんです。小さい頃、冬におばあちゃんの家に行ってコタツでおじいちゃんとおばあちゃん、それにお母さんとお父さん、皆でお茶を飲むのが好きだったなぁ……」
お正月、帰省して皆笑顔で過ごしたな。懐かしいなぁ、今はもう泊まりがけでなんて帰省しないもん。
「それはとてもいいことだな」
お茶を持って季史さんが座る。コタツの、私の隣の面に。
「日本茶でよかったか?」
「はい、ばっちりです! これで蜜柑があったら完璧なんだけど……」
そこまで願うのは図々しいかな。そう思っていたら。
「この前もそんなことを言っていたな。だから」
季史さんはまるでマジシャンみたいな鮮やかな手つきで、何処からともなく蜜柑を二つ、取り出した。何も持っていなかったはずなのに。
「すごいっ! どうやったんですか!?」
「ふふ、秘密だ。それより、あかね」
目の前に置かれた小さめの蜜柑。私は笑顔で手に取った。
「ありがとう、季史さん。……食べましょうか?」
「そうだな」
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