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□Happy Valentine's Day
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いつもの通学路で、偶然アミに会った。
朝から遭遇するのは珍しい、と思っていたら、丁度いいからと鞄から取り出した包みを渡された。
「義理だけどね」
そう念を押して渡されたのは、可愛らしいラッピングのチョコレートだった。
「ひょっとしたらカズはあげる側かもしれないけど、仕方ないから一応あげるわ」
「仕方ないからってなんだよ」
そう言いつつも、貰って悪い気はしないのでお礼を言ってチョコレートを鞄へしまい込む。
それを確認したアミは、何故か微笑みながら頑張ってなどと言って去って行った。




【Happy Valentine's Day】




終業を告げるチャイムとほぼ同時に、カズは教室を飛び出した。
両手でしっかりと握った鞄の中には、綺麗にラッピングした包みが入っている。
アミから貰ったものと、持参したものの二つだ。
もちろん持参した方は本命である。
「バン!一緒に帰ろうぜ!」
緊張で声が裏がえってしまわないよう気を付けながら、バンのクラスのドアを開ける。
最初に目に入ったのは、きょとんとした表情のアミだ。
「バンならさっき急いで出て行ったけど…。待ち合わせしてたんじゃなかったの?」
アミの言葉にカズは小さく首を傾げる。
バンとは特に待ち合わせをしていたわけではない。
他に用事があったのだろうか。
「まあ…用事があるのなら仕方ないよな…」
肩すかしをくったような気分だが、バンにもバンの事情があるだろう。
カズはアミに先に帰ると告げて教室をあとにした。


校舎を出ると、カズは鞄からそっとチョコレートの包みを取り出した。
仕方ないからこれはバンの家の郵便受けにでもいれておこうか。
そう思いながら包みを鞄へ戻したとき、ふと見慣れた姿を見つけた。
「……バン?」
バンが知らない女子と一緒にいる。
女子が手にしているのは、ひょっとしなくてもチョコレートだ。
会話はよく聞こえないが、女子の様子から見て、告白しているらしい。
バンは困ったように笑っているが、優しい彼のことだから、きっとチョコレートを受け取るのだろう。
カズは鞄の肩紐を握りしめて、その光景に背を向けた。


冷たい風が吹き付けてくる。
カズは足早に自宅へと向かっていたが、足を止めて鞄から包みを取り出す。
「…渡したかったな…」
「えっ、くれないの!?」
いきなり聞こえてきた声に驚いて、カズは振り返る。
そこには、少しだけ残念そうな表情のバンがいた。
「バン、いつからいたんだよ!」
「え?ずっとだけど?カズ、後ろから呼んだのに全然気付かないんだもん…。で、それくれないの?」
バンが再びたずねてくる。
カズは手にした包みに目をおとした。
「…でも、バンは女子から貰っただろ?」
「女子?」
バンは首を傾げていたが、ああ、と声をあげて笑った。
「あれ、断っちゃった」
「は…?断ったって…」
「だってオレ、カズからのチョコが一番だからさ。他のチョコはいらないよ」
バンはそう言って手を差し出してみせる。
「だから、カズのチョコちょうだい!」
カズはバンと包みを見比べる。
バンは相変わらず笑顔だ。
「……仕方ないな」
さんざん迷ってから、カズは包みをバンへと差し出した。
「断ったのなら、まあ、仕方ないしな」
「カズ、照れてる?」
「ばっ…!ちげーよ!」
そう言いつつ、赤くなった頬を隠す為、カズはバンから視線を外して沈みかけた夕日を見つめた。


1ヶ月後、今度はバンからのお返しにカズが再び赤面する羽目になるのは、また別の話。





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