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カズの様子がおかしい。
そう気付いたのは、朝のことだった。
「おはよう、カズ!」
「あ、ああ、おはよう…」
歯切れの悪い返事。
いつものカズなら気持ちいい返事を返してくれるのに。
それに、さっきからやけにこちらの様子をうかがってくる。
かといって目を合わせる訳でもなく、こちらが顔を上げるとすぐに視線を外すのだ。
「何かあった?」
「別に何も」
これは絶対嘘だ。
そう思ったけど、学校に着いたためにそれ以上の追及はできなかった。

「カズに嫌われたのかも…」
「そんなことあり得ないと思うけど」
昼休みの教室で机に突っ伏しているバンの言葉を聞いて、アミは小さく首を傾げた。
「だってカズがあんな態度取るなんて…。ダメだ、オレ立ち直れない」
「もう、世話がやけるわね」
アミはそう言いながらも嫌な顔一つせず、バンに笑顔を向けた。
「しょうがないから聞いてきてあげる。大丈夫よ、カズはバンのこと大好きだから」
「アミ…!ありがとう!」
さっきまでとは打って変わって満面の笑みを浮かべたバンに軽く手を振って、アミは教室から出て行った。

一人になったバンがしばらく朝のことについて考えていると、アミが戻って来た。
なんだか複雑な表情をしている。
「アミ!どうだった!?」
バンの問いかけにアミは苦笑してみせると、自分で聞きなさいと言った。
「聞いてきてくれるんじゃなかったの?」
「確かに聞きには行ったけど、絶対自分で聞いた方がいいわよ。帰り、二人っきりにしてあげるから聞きなさい」
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
それを合図に自分の席に戻りかけたアミは、バンの方へ向き直って微笑んだ。
「だから、大丈夫よ。やっぱりカズはバンのこと大好きだったわ」

帰り道、アミは昼休み言った通り、用事があると言って先に帰って行った。
バンはカズと連れ立って校門を出る。
先程からカズはずっと黙っているし、バンも口を開くタイミングを掴みかねていた。
重い沈黙が流れる。
「…バンは、」
学校を出てしばらく経った頃、ようやくカズが口を開いた。
「バンは、オレと一緒に居たいって思ってるか?」
当たり前のような事を尋ねられ、バンは一瞬きょとんとする。
「当たり前だろ!どうしちゃったんだよカズ!」
そんなことを聞くなんて、カズらしくない。
「それ…ホントか?」
「うん。カズはオレと居たくないの?」
「そんな訳無いだろ!オレだって、その…バンと一緒にいたい」
カズは目を逸らして恥ずかしそうに言う。
それを聞いて、バンは少し安堵した。
「急にそんなこと聞くなんて、何かあったの?」
「…今日、9月14日、だから」
「…それだけ?」
「それだけって、今日何の日か知らないのかよ」
「何かあるっけ?」
バンの言葉にカズはしばらく口を開けたり閉じたりしていたが、すぐに真っ赤になって唇をとがらせた。
「何だよ、オレ一人で悩んで…。バカみてぇ!!」
「ねえ、何?今日何の日なんだよ!」
「教えない!自分で調べろ!!」
真っ赤になったままのカズは、叫びながら小走りでバンを追い抜いて行った。
バンがそれを追いかけようとすると、カズがくるりと振り返る。
「オレはバンのこと、好きだから!」
それだけ言ってまた走り出す。
ぽかんとしてその背中を見ていたバンは、ふと我に返ると、帰ったら今日が何の日だったのか絶対調べようと思いながら、カズの後を追った。









――――――――
9月14日は、セプテンバーバレンタイン。
女性が男性に別れを告げてもいい日です。
中途半端に別れてもいい日だよーとか聞いちゃって不安になるカズ君と、何の日か自体知らないバン君。
でもこの2人は絶対離れないと思う。

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