ブック(短)

□帰り道は紅色に輝く
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夕焼けに照らされた紅色の道に伸びる二つの影。
黒く長く伸びているその影は、まるで大きな化け物の様にも見える。
影踏みを始めたら、一番先に狙われるかも知れない標的だろう。

帰り支度を始めた子供たちに少し遅れをとって動くその影の正体の足音は、渇いた地面を引きずる様にザリザリと刷った足音。
だが影は二人分なのに、足音はそのやる気の無い足踏み一つしか聞こえない。
それもその筈。
大きな化け物の影は、二人が重なって出来た紛い物に過ぎ無いからである。

『まだ痛むか?』

『……痛い。』

シカマルの背に乗っかるいのは、不貞腐れながら足をブラブラと揺らす。
右足は忍靴を履かず、包帯がぐるぐると細い足首に巻かれている。
僅かながら腫れているのが見られるその足は、今日の任務中いのが作った負傷の証だった。

第10班で任務を行う時は、決まってフォーメーション猪鹿蝶を取る。
心転身をして空っぽになったいのの体を支えるのは昔からシカマルの役目であり、今日もいのを支え様と手を伸ばした。
だが、『触らないで!』と
相手の体を使っていのの本心を吐き出された途端、シカマルの手の動きは固まってしまう。
支えられなかったいのの体は無惨にも変な体勢で倒れ込み、元の体に戻ったいのは足の激痛で悲鳴を上げた。

『大体お前が維持張らなきゃそんな打撲出来なかったのによ。』

『い、維持じゃないもん!』

『じゃあ何だって言うんだ?』

『そ…それは……。』

モゴモゴと口隠る歯切れの悪い口調。
いのは罰が悪そうに俯いていた視線を泳がせながら更に落とした。
正面を向いているシカマルはそんないのの表情は見られない。
だが、何となく確信はしていた。
その怪我の事の発展の時から。

『しかしなー、面と向かってあんなに拒絶されると流石に傷つくぜ?』

『……うん。』

『あの事。そんなに嫌だったか?』

『そう…じゃない。けど……』


そっからいのの言葉は繋がらなかった。
ただ、何か言いたげなのは解る。
肩に置かれた拳がぎゅっと強く忍服を握り、微かに震えているから。

そんな弱々しく震えるいのを感じたのは些かぶりであろうか。
普段は強気で男にも比毛をとらない頑固者で行動派で。
それでいて、プライドが高い故に小さな事を気にして泣いて。
初めは幼馴染みと言う事もあり、保護者或いは兄妹みたいに彼女を見ていた。
それが何時しか妹から女に変わり、好きな奴になった。

そんな気持ちを押さえきれず、告白したのが三日前。
いのは何も告げずにその場から告白を無かった事にしようと逃げ出し、気まずいまま今日の任務を行う羽目になったのである。

心転身の時に、触られたくなかったのも意識からくる拒絶だろう。

いのが怪我をした原因は自分にもあると感じたシカマルは、半ば強引にいのの手を取り背に乗せる形となった。
始めこそは抵抗していたいのだったが徐々に落ち着き今の状態に中る。
ギクシャクした空気は継続中相変わらず立ち込めているが…。

そんな空気に耐え兼ねたシカマルは、大きく息を吸い込み口を開く。


『あのよぉ、今すぐ答えを出せなんて言わねぇから。俺は只言いたい事を言っただけなんだからよ。』

『うん…』

『だから、いのも言いたい事が出来たら言いに来い。俺たちはどうなろうが、幼馴染みで班員には変わらないんだし。解ったか?』




『それって、何年でも待つって事?』



何でこう言う類いの日本語力はあるのか。
面と言われると、自分の言葉とはいえみるみる羞恥心が襲う。


『そうだよ。文句あっか!?』

『な、無い…です。』


強きに放った言葉に、クスクスと笑ういの。
忍服を握った拳から震えは消えていた。


『お前ってズルい女だな。』

『ちょっと、人聞きの悪い事言わないでくれない?それが好きな子に対する言葉な訳!?』

『…それがズリーんだよ。』

あんなに脅えてた癖に、今度はこの態度。
コロコロ表情を変える天真爛漫っぷりには白旗を掲げる。

それにズルい理由はまだある。

いのは医療忍術を使える。
そんな奴が、足の打撲の一ヶ所や二ヶ所。治す事なんて余裕で出来るだろう。
それなのに、いのは自分を治療する事は無かった。
本当に自分(シカマル)を拒絶しているくらいなら、今みたいに背に乗っている訳無い。
直ぐさま治して、自力で帰っているだろう。


(『まぁ、それを口にしない俺もお互い様か…』)


まだ口に出来ないのなら待っていよう。
惚れた女を困らせるくらいなら身を引けとアスマも言ってたっけ。



『ねぇ、シカマル。今日の夕日綺麗だね。』

頭の中でぐるぐると試行錯誤するシカマルに対して、目の前に大きく沈む太陽を呑気に指差すいの。
その真っ赤なる太陽は、まるでシカマルの変わりに火照っている様だった。

『あぁ、綺麗だな』

一人の帰り道。
夕日を綺麗だなんて思った事はあっただろうか。
太陽が沈む。
当たり前の自然現象に心奪われたのは、正直初めてかもしれない。
この事は、数年に渡り心に刻まれるだろう。

こうしていのとお揃いの記憶を集めたい。

だから、早く素直になれだなんて言えたらどんなに簡単だろうか。



『あのね、シカマル──』

再び強く震える様に握られた忍服。
その震えは先ほどとは微かに違う。

天の神様。
そんな者が居たら拝みたいもんだと思っていたが、どうやら今日のお天道様はそれに近い存在だったらしい。

化け物を作っていた影は、驚きのあまりドスンと言う鈍い音と共に分離した。


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りん様より、相互記念小説でした!
いいですよねー…幼なじみカップル( ´艸`)
こんな素敵な小説にもかかわらず、掲載が遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
これからもどうぞよろしくお願いします♪


2012.8.2


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