ダンガンロンパ 短

□甘いオシオキ
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今日は休みを貰い、気楽に過ごせと言われた九頭龍のコテージに響く呼び鈴の音。

「九頭龍くん、あのねあのね、背比べしよう!」

「あぁ?」

ドアの前に立っていた葵に言われたのは、ほんの数分前の事だ。




葵は半ば強引に九頭龍をロビーに連れてきた。

「はいはい!ではでは皆さんご注目!只今より、私と九頭龍くんのどっちが背が高いのか、比べたいと思いまーす!」

元気のいい声でそう言った葵は、九頭龍と自分の他の二人を見た。

「佐々原…まさかその為だけに呼んだんじゃないんだろうな?」

呆れた様な顔で葵を見つめる日向につづいて、希望の手伝いが出来るなら光栄だ、と狛枝が続ける。

「日向くん………それ以外に何があるっていうの?」

さも当然と言うように、葵は日向に言った。そう、葵は九頭龍と背比べをするためだけに日向達をわざわざ呼び出したのだ。

「あ、あのなぁ…佐々原…」
「するなら早くやってくれ……」

今更やりたくない、無理だなんて言っても、葵は絶対に自分と背比べをする。そう判断した九頭龍は、ほぼ諦めたように呟いた。

「じゃあ、九頭龍くん、靴脱いでね!」

そう笑いながら靴を脱ぐ葵の横で、渋々靴を脱ぎ始める九頭龍に、狛枝は腕を伸ばしかけたが、ハッとしたようにすぐ引っ込めた。裸足になってペタペタと壁まで歩いていく葵は、自信満々に腕組みをして九頭龍を待った。

小さく深呼吸をし、壁まで向かう九頭龍に葵は言う。

「九頭龍くん、靴下もだよ、反則はダメだよ!」

徹底的にやるつもりな葵に、九頭龍と日向はため息を吐いた。



ピッタリと背中同士をくっ付け、ワクワクと結果を待つ葵は、おもちゃを買ってもらう小さな子供のようにも見えた。一方その反対側の九頭龍は、明らかに結果が分かってなんだか落ち込んでいるような表情だ。

「……日向クン、僕はもうお暇しちゃっていいかな。最後まで見ておきたいのは山々なんだけど、僕、いろいろと採取しに行かないと学級目標達成出来ないし、皆頑張ってるし、僕だけ休んでるのはダメだよね。だから僕、行くね。ごめんね佐々原サン、本当にごめんね。」

残念そうな顔をしながらも、一息で言い切った狛枝は、そそくさとロビーを出て行った。狛枝が出て行った方を、日向は泣きそうになりながら睨んでいた。

「狛枝くんいっちゃったね。じゃあ日向くん、結果教えてよね」

日向は今すぐ逃げたい衝動を抑え、葵に向き、笑いながらこっちに来るよう合図した。日向はひきつる笑顔で葵を引き寄せ、耳元で何かをつぶやいて、狛枝と同じようにそそくさとその場を出て行った。葵は、顔を緩ませながら九頭龍の方に向かう。

「九頭龍くん九頭龍くん、私のほうが高いって!よって、勝利は私、葵に決まりました!」

そうかよ、と呟いて九頭龍は、震える手で靴を履き始めた。同じように靴を履いて、葵は九頭龍の手を取った。

「あのね、九頭龍くん。私のお願い1つだけ聞いてくれる?」
「は、はぁ?何言ってんだ。」

そんな事は聞いてない、ありえない。葵のお願いだとか、どんな事でも有りうる。

「いいよね、ねっ、九頭龍くん!」
「………はぁ、」

そんなに必死にお願いされては聞かないわけには行かない、と思う。背が低い、と言われたようなものなのだが、何故か憎めない笑顔。超高校級の極道だろうがなんだろうが、惹かれた女の笑顔には強くなかった。


そうして今、九頭龍の膝の上にとびきりの笑顔が乗っている訳だが。いや、恐ろしい意味ではなく。時たま聞こえてくる微かな笑い声と、目を合わせて笑っていく笑顔に、九頭龍は耐えるのに必死で。

葵にとっては“罰ゲーム”の様な物なのだろうが、九頭龍に取っては逆効果だった。
そんな九頭龍に、オシオキが下る。

「九頭龍くん、足痺れるだろうし、私も膝枕してあげる!」




甘いオシオキ


手で顔を覆って動けない九頭龍を見た採取組が
その後夜まで騒いだのは言うまでもない。







え?日向君がなんて言ったかですって?

「佐々原、事実お前の方が高い。けどな佐々原、九頭龍には絶対言うなよ。指持ってかれても文句は言えないぞ。」

です。

ちなみに九頭龍と夢主ちゃんを目撃したのは、罪木ちゃん、左右田くん、真昼ちゃん、狛枝くんの4人です。厄介なメンバーだなしかし。


罪木「はわわ……葵さぁんっ!何してるんですかぁっ!まだお昼ですよぉ!?」

左右田「うわっ!佐々原、と九頭龍!?お、おまおまお前ら何してんだ!羨まし……じゃなくてそういうのはコテージでやれよ!」

小泉「えっ!?ちょっと九頭龍!早くどきなさいよ、葵も早く立って!全く何してんのよ、いくら恋人同士だからって私たち今まで作業してたんだからね!?」

狛枝「あれ?佐々原サンと九頭龍クン?あははっ、さすが恋仲だね!仲直りも早いや!あ、僕なんかが二人の希望の時間を邪魔するのはおこがましいと思うんだけど、もう少しだけ見させてくれると嬉しいなあ!まあ無理なんだったら仕方ないけどね!僕を煮るなり焼くなり罵倒するなり好きにしていいよ!」



九頭龍君と罪木ちゃん、左右田くんの口調がわからないでござる……。

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