☆短編小説☆

□Fleur-de-lis
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晃は、悩んでいた。
彼氏である雅人は酷い浮気性で、何度泣かされたか悩まされたか分からない。
それでも好きなのだから、別れられずに今日まで来てしまった。
土曜日の夜だというのに、突然のどたキャン。
明らかに、他の誰かと会っているに違いない。
今日こそははっきりさせてやる、と。
晃は立ち上がった。


合鍵を差し込む動きが一瞬止まる。
こんなこと、いいのかな。
躊躇いが晃を支配する。
だが、自分は雅人の恋人なのだ。
浮気現場に乗り込んで何が悪い、と意を決して鍵を回した。

「…ぁ、あ…」

小さな喘ぎ声が耳に届く。
信じられない。
あのベッドで、浮気相手と身体を重ねているのかと思うと、かぁっ、と身体が熱くなった。

「雅人っっ!」

思わず名前を呼んで寝室の扉を勢いよく開く。
そこには。
小柄な青年を組み伏せ、今まさに挿入しようとしている雅人の姿があった。


「お前さぁ…」

呆れたように煙草を銜え、紫煙をくゆらす雅人の横で所帯なさげに俯く浮気相手を睨み付ける。

「誰だよ、この人」
「誰って…トモダチ?」
「嘘吐かないでよ!」

半泣きになる晃。
やっぱり、浮気してたんだと哀しくなる。

「折角だからさ」
「…何だよ」
「お前ら二人でセックスしてみろよ。他人のセックス、見てみたかったんだよね俺」
「はぁ?バカにしてる?」
「バカになんてしてねぇよ。…ヤってみろよ、じゃなきゃ別れる」

勝手な言い種に晃は目を見開いた。
浮気現場を押さえられて、謝るどころか見も知らない相手とセックスしろ、だなんて。
しかも拒否すれば別れる、だなんて。

「ヤだよ!」
「じゃあ別れるしかないよなぁ…」
「それも…イヤだ…」

幾ら浮気性でも、雅人と別れたくはない。

「見ててやるから、してみろよ」

ベッドから立ち上がり、代わりに晃を突き飛ばす。
蹲る浮気相手と、視線が絡んだ。
可愛い。
ふと、そう思った。
くりん、とした大きな瞳にふわふわの栗毛。
肌は蝋のように真っ白で、唇だけは桜桃の様に赤い。
この子なら、雅人の浮気心を擽るのも無理はない。
そっと唇を重ねてみた。

「ん…っ」
「ぁ…」

柔らかい唇に触発される。
おかしい。
何をやっているんだろう。
そんな感情に、晃の身体は燃え上がり始めていた。
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