〜短編〜

□白桜伝〜月夜抄〜
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「う〜ん、と……あとはこの道だけか」


数十分ほどで大方森の中を巡った桜華は、川沿いの道を歩いていた。


「……この先って、確か……」


それから数分歩くと、彼の視界に小さな湖が映った。


「……この日に来るのは久々だな……」


湖や森を照らす満月を見上げて湖の縁に近づく。


「……そういや、親父とよく釣りをしてたっけ……」


今はどこかに行方を暗ませている父との思い出に浸りながら桜華は微かな波すら立たない静かな水面に触れる。そこから小さな波紋が生まれ、やがて遠くで消えていく。


「あまり近づきすぎると落ちますよ?」


「うわぁっ!!?」


水面に映った自分の後ろに女性の顔が映り、驚いた桜華は慌てて横に飛び退く。


「驚かせてしまってすみません。私、この辺りに住んでいて"月華"と申します」


「……あんたは妖怪なのか?」


平静を取り戻した桜華が尋ねると、月華はゆっくりと首を縦に振った。


「私は満月に照らされている間だけ活動します。そうしなければ、私はほかの妖怪に食べられてしまうのです」


「つまり、月の光が力の源ってことか?」


「そういうことです」


桜華の問いに月華は微笑んで答える。しかし、桜華はその微笑みの中に微かな悲しみを感じた。


「……何をそんなに悲しんでいるんだ?」


桜華が尋ねると、月華の表情は微笑みから苦笑いに変わった。


「……私の力の源は、月の光です」


「あぁ、そう言ったな」


「そして、私が他の妖怪に食べられないのは月の光があるからです」


「そうだな」


そこで月華は一度口を閉じ、真剣な表情で桜華の瞳を見る。同時に、桜華の表情も自然と強張る。


「……しかし、現在は以前に比べ、月の光が弱くなってしまいました」


「光が?」


「はい……」


桜華の問いかけに頷き、月華は視線を歪むことなく水面に映る満月に向ける。


「……排ガスか……」


「既に私が生存できる限界に達しています。ですので……






























……私を、殺してください」



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