橙の風
□肆
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「す、すまぬ!弁の、弁のせいで…」
「ち、がいまする。わかさまは、なにも…」
今にも泣き出しそうな悲痛な面持ちの若に、俺はただ首を振る事しか出来なかった。
声が、手が、身体が震える。
「…何故泣いているのだ、佐助…傷が、痛むのか?」
「な、いて……?」
呆然としていた昌幸様が、ゆっくりと俺の頬に手を伸ばす。
血に塗れた俺を触れられたくなくて、逃げようと思ったのに、身体は言う事を効かなくて。
…泣いて、いる?俺が?
視界の隅に見えた昌幸様の手を、透明な雫が伝わって床に落ちた。
「あ……おれ、なく、なんて…」
忘れた筈なのに。
涙なんてモノ、当の昔に涸れた筈なのに。
止めようと思っても、ソレは堰を切った様に止め処なく佐助の頬を濡らしていった。