橙の風

□参
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逸れにまた苦笑した昌幸様は、体勢を崩すと俺に少し近付いた。

「仲良くはなったか?彼奴は佐助を大層気に入った様だが」
「仲良くなど…其様な事、私には恐れ多い事で御座います」

一歩、昌幸様から遠ざかりたかったが、昌幸様の許し無しに勝手に動く事は赦されない。

退こうとした身体を押さえ、頭を垂れたまま返せば直ぐ頭上で息を吐く音。


「まだ言っておったのか。我等は家族だ、と言っただろう。家族が仲良くなるのに恐れ多いも糞もあるか」

くしゃり、と髪を撫でられる感触。
若に仕え始めてから、偶に感じるこの不思議な感触を、俺は未だに馴れる事が出来ないでいる。

「…私は、忍で御座います」

家族、と言われても、其れを受け入れる事は出来ない。
そもそも俺は、“家族”を知らないし、何より身分が違いすぎる。

片や城主で、片や忍。謂わば光と影だ。
影は、光とは相容れない存在なのだから


「…まだ、そんな事を言っているのか。ふむ、此れは弁丸に頑張って貰う他ないか」

ぽつりと呟いた昌幸様の言葉に疑問を感じていれば、先程より更にぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
先程とは違い、直ぐに離れた手に何故か違和感を感じて内心首を傾げる。


「わざわざ済まなかったな、佐助。下がって良いぞ」
「…は、失礼致します」

にこりと笑った昌幸様に再び頭を垂れてから、室を後にする。

後には、不思議な違和感と頭に微かな温もりが残っただけだった。
 
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