橙の風
□参
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若に仕え始めて数日。
その数日の間で、俺の中での若の印象は大きく変わった。
初めて御会いした時は、笑顔の眩しい、俺の髪色を受け入れた、変わった“子供”。
好きに笑い、好きに泣き、誰にでも愛されて育つ“幸せ”な子供。
俺、という異端を受け入れた、然し、他は俺を恐れた子供と、同じだと思っていた。
「はぁっ!」
若からは見えない場所で、彼の人を見る。
誰もいない、人気の無い裏庭で一心不乱に木刀を振るう若の顔に、いつものような笑顔は無い。
流れる汗を拭う事もなく、ただただ刀を振り続ける若は、只の幸せな“子供”には見えなかった。
「佐助。弁丸はどうだ?」
「…は、毎日勉学や鍛練に励んでおります。日毎に成長が見られると、池田様が大層御喜びになられておりました」
つい先日、昌幸様に呼び出され若の様子を御伝えしたら、苦笑いを返された。
池田様は、若の武術の師として剣技を御教授為されている真田家の家臣の一人だ。
「言い方が悪かった様だな。佐助よ、弁丸とは良くやっているか?」
「…失礼ながら昌幸様、良く、とは…」
余り御会い出来ない若の様子を知りたかったのでは無かったのだろうか。
昌幸様の脈絡の無い言葉に、俺は首を傾げるしか無かった。