橙の風

□弐
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甲斐の虎こと武田信玄が治める国。

上田は真田家が当主、真田昌幸が武田信玄公に任された地である。




里から離れ、上田城へ仕えることとなったのはつい先日のことだ。

その際に、くの一…女であると、嘗められるよう更紗という名を捨てた。

元から里長から貰った名に、未練など全くない。
ただ、かすがが呼んでくれていた名だと思うと少し、名残惜しい気もするが



「さすけ」
「…ここに」

新たな名は、佐助。
猿飛佐助と名乗り、真田昌幸様が次男、弁丸様付きの忍として上田城へ来た。


小さな主の呼び声に、主の後ろへ頭を下げてひざまずく。

私…否、俺の姿をその目に認め、ぱっと笑みを浮かべる主。
その笑みは直ぐに消え、次は不機嫌そうに顔を歪めた。


「そのようにするなともうしたでござる…」
「…私は忍。若様とは身分が違います故」

頭を下げたままそう言えば、関係ない、とまだ不機嫌そうな声音で返ってくる。

渋々頭を上げ、主の顔を見れば、不機嫌そうな表情から一変して笑顔になる


ころころと変わる表情に、里に残された唯一の友を思い出した。
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