橙の風
□壱
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森の中、一際大きな樹の上で空に浮かぶ月を見ながら、遠い記憶に想いを馳せる。
この森は、《私》が死んだあの場所に…よく似ている。
ただ独り、誰かと一緒にいることなどなく、自分の名さえ知らずに死んだ…
謂わば、前世と呼ばれる世で
「――…かすが、か。」
「、気付いていたのか、更紗」
自分の背後で、不安定に揺れる気配にぽつりと呟いた名に反応して隣に降り立った、《この世》で出来た初めての幼馴染み
鮮やかな金糸のような髪に、整った顔立ちの、幼さの残る可愛らしい少女。
前世でも今生でも、初めて出来た信じることの出来る唯一の人間
「気付くさ、お前は気配を消すのが下手だから」
「……お前が気配を読むのが上手いだけだ」
月に目を向けたままくすりと笑えば、少しだけ、悔しそうに顔を歪めたのがわかった。
嗚呼、本当にかすがは忍には向いていない。
忍に感情は不要、ただ主となった者の駒で在ればいい
そう教えられた――
忍は道具。人として生きることは無い、と