橙の風
□零
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死――
それは、この世との今生の別れ。
どれだけ生きたいと願っても、いつかは必ず訪れる、この世の運命<さだめ>
それをわかっていても尚、人は死を恐れ、他を蹴落としてでも生にしがみつく醜い生き物だ
「ようやく、死ねる…――」
私は、死を望む。
私という人間が醜くない、というわけではない。
寧ろ、他の人間よりも私は醜いだろう
生まれてすぐ、貧困の地にあった母と父は私を捨てた。
捨てられた森の奥、心優しき一人の男に拾われ死を免れ育てられた。
――…否、心優しき者ではなかった。
捨てられた子供らを拾い、裕福な家などに売り飛ばして生きてきた男
幸か不幸か、売り飛ばされる前に、男は流行り病で死んでいった。
それからは、ただただ生きる為にこの世を駆けた。
盗みもやった。時には人だって殺した
…初めて人を殺した時、なんて脆い生き物なんだと愕然としたのを覚えている
その時は、ただただ【死】が怖かった。
【孤独】と【闇】が、怖かった。