曼珠沙華

□第弐章
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信玄と幸村がやれ危険だやれ供をと騒ぐ中、菊は一人溜息をつく。

心配をしてくれるのは有り難いが、菊とて訳もなく一人城下へ下りる訳ではない。


二人の傍らで苦笑した佐助に一瞥をくれると、瞬時に意を理解した佐助は菊ににこりと笑みを向けた。

これには菊も流石だと感嘆する他なかった。


「大将に真田の旦那、俺が菊姫さんの護衛するから安心しなよ」
「直ぐ戻ります故。佐助もおりますし、御安心下さいませ」

護身用の小太刀も持って行きます故。

其れだけ言うと菊は佐助に「行きましょう」と踵を返す。


もちろん其れに黙っていないのが信玄と幸村で、

「待てぃ菊!」
「待つのだ佐助ぇ!」

父であり、城主である信玄の言葉にピタリと動きを止める菊。
佐助も、自身の主である幸村の言葉に動きを止めた。

菊は二人に見えない様に本の少し溜息を零すと、その顔にすっと笑みを浮かべ二人へと向き直る。
その様子を全て見ていた佐助は、苦笑するしかなかった。


「何か入り用の物でも御座いまするか父上様?」
「否、無い。菊、御主の事じゃ、訳なく城下へ赴く事はあるまい。せめてその訳くらい、父に教えてくれぬか」

その言葉に、佐助は感嘆する。


こう言っては何だが、主の幸村と殴り合いばかりで毎度菊に叱られており、威厳など無きに等しい。

だが、やはり一国一城の主である。
国や民の事はもちろん、色々と考えている。
 
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