暖かい水の中

□第二章
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まだ宵の残る空に、朝独特の空気が身体を包み込む。

目の前に振り下ろされる刀を身体を軽く捻るだけで避け、一つ、大きな欠伸を零した。


「チッ、おいアニエス、やる気あんのか!」
「………一応、ある」

そんな彼女に忌ま忌ましげに舌打ちした神田に、アニエスは今にも閉じそうな目を擦りながら答えた。

それがまた神田のカンに障り、早朝から教団に神田の怒鳴り声が響いた。


事の始まりは、凡そ二時間前に遡る。







夜だろうと関係なく働く科学班とは違い、寝静まり静寂が包むエクソシスト達の休む部屋が並ぶ廊下。

本来静寂に満ちている筈の時間に、カツン、と響く足音。
ソレはある部屋の前で動きを止めた。


「おい、アニエス。起きろ」
「……………………………ユ、ウ?」

限りなく小さく、しかし響く様な声で部屋の中の住人を呼ぶ青年。
頭上で結わえてある艶やかな黒髪に吊り目がきつい印象を与える。

神田は部屋の中からの声を認めると、取っ手に手を掛け開け放つ。
部屋の中には、ベットに体を起こした状態で座る少女。


窓から差し込む僅かな光で輝く金糸の様な金髪に、うっすらと開いた瞳は空を映した様な碧眼を持つ、美しい“少女”。

男と見間違う程の顔に、彼女を最初男だと言った人は多い。


「起きろ。鍛練、手伝ってくれんだろ」
「……ああ、言った、ね」

まだ眠ろうとする身体を起こし、コートを羽織り武器をとる。
その様子を確認した後、神田は踵を返して部屋の外へと出ていった。


「早く行くぞ」
「………うん。…眠い、なあ」

斯くして神田とアニエスは教団の裏手にある森へと姿を消した。
 
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