曼珠沙華

□第弐章
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信玄の言葉に、菊は一瞬きょとんと動きを止めた。
其れも直ぐに終わり、ふぅ、と小さく息を吐き出すと、菊は信玄へと顔を向けた。

「……解りませぬか、父上様」
「む?解らぬから聞いておるのだ、菊」

てっきり、信玄の言葉に「流石は父上様に御座いまする」と少なからず感動すると思っていた佐助は、寧ろ呆れた様子の菊に首を傾げた。

信玄も解らぬと首を傾げる中、幸村に至っては話しすらついていけていない様だった。
そんな二人に、菊はまた一つ息を吐き出すと目をすっと細めて二人を見遣る。


「民の様子を見に行って参りまする。最近は日照りが続いております故」
「おお、何じゃそうならそうと先に言えば良いのに!」
「城下まで様子を見に行かれるとは、流石菊姫様に御座りまする!民を想う身心!この幸村感激致しましたぞ!」

菊が目的を話せば、二人揃って似たような反応が返ってくる。

其の反応に、菊は溜息をつくとくるりと二人に背を向けた。
其れに首を傾げる二人に、意を理解した佐助は苦笑を漏らした。


「――…本来ならば、もっと早うに行く予定に御座いました」

静かに話し出した菊の声は、何時もより低く、冷たいものだった。
 
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