橙の風
□参
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東へ。
其れ則ち、左遷を表す。
どんどんどんどん濁りを増す池田様の眼に吐き気を覚えながら、次の言葉を待つ。
何を言うかは、予想出来た。
「我輩は真田家が為、尽くして参りました。故に、此度の事は納得出来ぬのです。…弁丸様、無理を承知でお願い申し上げます」
到頭、眼は濁りきった。
「我輩を助けると思い、昌幸様へ言うては下さりませぬか?」
其の言葉を聞き終えた瞬間、俺は屋根裏から素早く降り後ろから池田様の首へクナイを突き付ける。
其れに今まで信じられないと唖然とした表情から、驚いた様に目を見開かせた若を横目に、クナイを持つ手に力を込める。
城主である昌幸様の命は絶対。
其れに反すると言うならば、彼は逆臣。
場合によっては、始末しなければ為らない。
「何…!?貴様、…我輩に触れるな!汚らわしい、醜い忍風情が!」
「黙れ。今し方貴様が言った事、忘れたとは言わせぬぞ」
俺を確認した直後、かっと怒りに顔を染めた池田様に低く声をかけクナイを更に首へ近付ける。
僅かにぷつりと肉に刺さる感触を覚えると、池田様はサァッと顔を青く染めた。
「全て報告させていただく。其れまでは牢へ入って貰おうか」
俺から離れようとしていた力が抜け、絶望したかの様に床に崩れ落ちた池田様を見てクナイを仕舞う。
他の忍に彼を牢へ連れていって貰おうと、思い口に手を当て、ぴゅい、と鳴らす。
「ぅ、わっ!」
「!――若様!」
一瞬の油断が招いた、俺の落ち度だった。