橙の風
□参
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池田様の室に入って直ぐ、用意されていた上座の席に座る若。
その後に続き、池田様が下座に腰を下ろした。
「池田どの、ごようけんは何でござったか。確か今日のけいこは終いだったと思ったのですが…」
「ええ、本日分の稽古は終いに御座います弁丸様。態態御越し頂き、誠に申し訳御座いませぬ」
彼は苦手だ。
忍を、俺を目の敵にするのは勿論の事、だがそれ以上に彼の“眼”が、俺は苦手だった。
俺の存在の全てを拒絶し、嫌悪する、あの眼が。
そして、若様に対する、あの異常なまでの“狂った”態度が。
「まっこと、弁丸様の才には驚かされまするな。もう我輩の指南など必要無い気も致しますが」
そう言いながら、豪快に笑う池田様。
若は苦笑しつつも、「其様な事は御座りませぬ」と答えた。
その後も、中々話を切り出す気配の無い池田様に、若がまた「用件は、」と切り出した直後だった。
今までも濁っていた彼の眼が、更に暗く淀んだのは――
「……用件、そうでしたな。弁丸様、我輩此の度東の方へ行く事になりましての」
「東へ?それはまた…」
東へ
幼くとも、若は城主の御子であり、武家の御子。
其れが何を意味するか、解っていた。