橙の風

□参
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若の前から天井裏へと戻り、再びそこから下の様子を見る。

若は、天井を見上げて止まっていたが、少しするとふいと視線を下げてとぼとぼと池田様の室のある方向へと足を向けた。


池田様。
若に武術を指南している、真田家の重臣の一人だ。
彼は真田家の重臣達の中では最も若く、剣の腕前も立つ。頭もキレる御方だ

面倒見も良く、兵や女中からの支持も高い。


だが、忍を滅法毛嫌いされておられる。
その面では、忍を良く扱う昌幸様と対立されているのをよく見掛ける。

そして、忍の中でも、池田様は特に俺を毛嫌いされている。
忍という存在で、しかも異端な色を持つ、この俺を





「池田どの、弁丸ただいままいりました」
「おお、弁丸様。態態御出向き頂き申し訳御座いませぬ。ささ、御入り下さい」

室に辿り着き、若が声を掛ければ直ぐに池田様の声が返ってくる。
それに「失礼いたす」と室に入る若に続き、屋根裏から池田様の室に入る。

忍でない池田様がその事に気付く訳は無く、若が入った後、忌ま忌ましげに俺がいないか確認して襖を閉めた。
 
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