例文アナザー

□第四章:推理
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「だぁれ?その男」

「こいつは薪城初。私の新パートナー」

「いやいやいや、いつパートナーになったんだよ俺」

きゅるりんという音が似合う子供。
訊きたい事が山ほどある。

「若山、お前に訊きてー事あるみたいだぞ、コイツが」

「んー、良いよ、何でも答えてあげる。てか何質問されるのかは大体解ってるからこっちから答えちゃうよ?」

「は?」

俺は疑問を巡らせる。
若山蓬ももしかして読心術を使えるのか?

「使えねーよ、こいつにゃ無理」

華崎からの容赦無い突っ込み。
くそう。個人情報保護法は華崎の前では塵に同じか。

「うーん、もういっか。ええと、まずは自己紹介ね。若山蓬、1952歳!ぴっちぴちの女子高生!趣味と特技は時代の流れに身を任せる事!1952年分の知識と記憶で何でも解決しちゃう!平成の世では私立探偵をやろうと思ったんだけど昭和から過ごしてるこの学園生活が堪らなく楽しいから今はスクールライフを満喫中!嫌いなものは嘘と殺人!好きなものは嘘と殺人を見抜くこと!それから、あ。この教室であった事件の事には私は関わってないよ。関わってるのは多分下っ端の過度の馬鹿共さ!切り口から見て私の創ったナイフだったからね。あ、序でに言うと私のナイフの切れ味はこの世で一番だからね。触っただけで切れちゃうよ」

呑気にえへへと笑う若山蓬。
ちょっと紹介文長くないかという質問はさておき自分の率いる殺人集団がやったと何の迷いもなくすんなり言いやがった。

「え、1952歳?」

俺は今頃そこに気付く。
現在は2011年4月。
そんな、まさか。

「ん、そうだよ、今のカレンダーでいくと11月12日生まれの蠍座!」

「いや何の冗談だ」

「冗談じゃないよ、初っちの名前の方が冗談でしょ。アハハ、怒ったー!」

「怒ってねーよ、それよりそれってマジ?」

「うん、嘘なんて吐いてないよ!そして一言で言ってしまうと私は何かを思い出すのに少々時間がかかるから制限時間のあるものとかは無理!タンスの引き出しから物取り出すみたいな作業だからね。いっぱい詰め込みすぎると色々問題があるでしょ?見つけられないっていうね。そこが欠点なのだ」

本気で言っているようにしか見えない表情としぐさ。
それを疑う俺。

「初君、若山、そろそろそんな茶番よして本題に入ろうぜ」

話を切り出したのは華崎だった。

「うん、オーケー」

そう言って華崎の近くの椅子に足をブラブラさせて座る若山。
流石にこの身長で高校生の椅子は高いのだろう。

「初君、それじゃまず君の推理を聞こうか」

「さっきダメだししたばっかだろ」

「良いから言ってみなよ」

華崎は意地悪い笑みを浮かべる。
くそ。名誉挽回のチャンスを与えたつもりかこの女。

「まず犯人は“喰欲”の組織の下っ端と若山先輩が言ったが俺はそうとは思わない。きっと何らかの方法で“喰欲”の誰かからナイフを手に入れた狂気じみた“男”だ。それも多分腕力を必要とする部活、又はクラブに所属していた者か元々その力があったものだろう。身長は殺された槇本那美枝とは何の関わりもない者。協力者には女がいると思われる。殺したのは狂気じみた男、頼んだのがその女。犯人は二人だと思う。若山先輩が作った。それで一人。若山先輩が指紋を残さない持ち方を教えた人物。仮にA氏としよう。それで一人。それをA氏の知り合いで仲の良かった者に何らかの方法で奪われた。その人物はそのA氏に指紋を残さない持ち方諸々教えて貰ったのだろう、というのが俺の推理」

「結局は依頼されてナイフを手に入れそれで殺されたっていう推理か」

「頭良いね、初君!」

「だが解らないのは女と男、どちらがナイフをA氏から手に入れたのか。A氏とは誰か。なあ、この推理どう思う、華崎」

「良いんじゃねぇの?お前らしくて。私は何にも考えてなかったからそれで良いんじゃね?それより何でお前はそういう風に思ったんだ?何で狂気じみた男なんだ?」

「高校生の女子を殺すのにはそれなりの体力と精神力が要される。それに内臓をひっぱり出す体力も残しとかなきゃいけないしな。それにはやっぱ握力だろ?女の細腕にできるはずが無い。細腕じゃない女もいるが。それはおいておこう。それから殺された槇本那美枝に直で関わってるならそんなすぐに犯人が解るような馬鹿な事しねぇ。組織の人間ならもっと頭使うはずだろ?なあ、若山先輩?」

「見抜かれてたかな?」

「当たり前」

「何をだ?初君」

不思議そうに言う華崎。
俺は一呼吸。

「若山先輩は1952年間も生きてるんだ。自分が生き残れるように、自分が得するように、自分が良い立ち居地にあるように。そんな手段考えなくても解る」

まあ1952年も生きてるなんて信じてないけど。

「にゃはは、さっすが曖ちゃんの選んだ男だ!流石だよ」

「そういう事か」

華崎はククッと笑う。
全く、この人は何でこう楽しそうなんだ。

「とにかくだ。そこから絞っていけば何とか犯人に漕ぎ着けるンじゃね?」

「そうだな。まずは」

華崎はにんまり笑って俺を指差す。

「そいつの近辺調査だな」


20110526

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