例文アナザー

□第二章:異常
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槇本那美枝(まきもとなみえ)。
16歳。
蓮篠(はすしの)学園高等部芸術選抜クラス、一年七組。
美術部所属。
栄誉部長。
殺害された。
死体が見つかった場所は彼女の教室。
腹が引き裂かれ、内臓が出ているという惨い状況。
第一発見者は彼女の学年主任、中谷香鷹(なかたにこうよう)。
男性教師で、英語担当。
現在死体を見たショックで入院中。

ってところですか。
俺の知ってる記録(データ)は。

「で、華崎さんはどこまで知ってるんですか」

立ち入り禁止区域、高等部一年七組に俺は立っている。
以前会った時と同じ場所に彼女はまた立っていた。

「うん?そりゃぁ全部」

得意気に笑う彼女。

「じゃあ犯人も解ってるんですか」

「まあな。てかその敬語やめろよ」

「はいはい」

「うん、それでいい」

彼女は机から飛び降りた。
未だ残る血の跡は乾ききっていて彼女の制服を汚す事はなかった。

だが、そんな所に座って気持ち悪くないのだろうか。

「で、犯人は?」

「そう結論に急ぐなよ。どうせなら楽しくやろうじゃないか。犯人探し」

「いや、人が一人殺されてるんだから楽しくなんかできねぇだろ」

「ん?まさかぁ…ビビッてるの?ダッサイなァ。まずはお前現状把握できてねぇだろ。教えてやるよ。状況を。犯人はその後で良いだろ?」

俺は一瞬躊躇ったがすぐに頷いた。

「まず彼女は誰に殺されたでしょう?」

「犯人じゃん」

「まあ落ち着けよ。普通以下のお前にも解る様、きっちりまとめて教えてやるよ」

赤い舌を出して意地悪そうに言う華崎。

「まずはだな、殺された槇本那美枝は先輩を置いて部長になった。まず可笑しいのはそこだろう?16歳にして、この蓮篠学園の院生まで従えてるんだ。そりゃあ恨みの買い口はいくらでもある。では、ここで問題です。槇本那美枝を殺したと思われるのはどういった人物でしょう」

「嫉妬深い先輩か?」

「本当に普通以下の脳みそだな。存在理由が解んねぇ」

グサッと心を刺す音が聞こえなかった。
だが、心臓部が痛む。
というか、心は脳にあるから、心の臓を刺す音、というのが正しい表現だ。

「で、なんなんだ?」

「うん?嫉妬深い先輩、なんて線だったらすぐに警察も見つけてるよ。友達とか後輩って線もな。美術部の線はすでに調べ終わってる。だが、犯人は未だ見つからねぇ。凶器は見つかってるっつうのに」

「え?凶器、見つかってるのか?」

「おう。とっくにな。凶器は手作りっぽいテーブルナイフ。今出てるのはそれ一本。傷口を見たところ、そのテーブルナイフで切った後だった。指紋は全くでなかった。作ったやつの指紋すらついてねぇんだから相手はかなりその辺の事情に詳しい集団。少なくとも三人。殺ったのは一人だが、協力者がいる」

「そんな情報俺もってねぇから犯人なんて全然解んねぇよ」

そう言って溜息をつくと、それよりももっと大きな溜息を華崎は吐いた。

「この学園にいるんだから、知らねぇことはねぇだろう?なんつったって、この高校の名前を蓮篠学園なんて呼ぶ生徒、この学校にゃ数える程しかいねぇんだから」

「……“異才の宗教団体”」

「そ、この学園は異才の宗教団体、略して異宗(いしゅう)」

この学園の本当の名前を呼ぶ生徒なんて数える程しかいない。確かにそうだろう。ここは、可笑しな学園だから。

五教科なんて形だけ。

どう説明したら解ってもらえるだろう。

「偉才の中の異才が集まった、鬼才だけに似合う奇才しか居ない、化け物の集まり。韓国の軍隊とは程遠く、ナチスの軍隊より大いに膨大な、ソ連の核兵器よりも凶悪な人間という名の皮を被った宇宙人の集まり、だろ?」

あ、怖い。この人読心術使えるの?
まあこの学校じゃ約5パーセントのなせるたいして不思議じゃない業だが。

「まあ、そう警戒するなって。話を進めようぜ?」

男勝りのこの口調に俺は揺らぐ。

「ああ」

「じゃあここで問題だ。ナイフを使え、ナイフを作れ、彼女に嫌悪感を抱いていて、指紋を残さずに行動できるほどの能力を持った、人を殺せる集団とは、何でしょう?」

この学園じゃ不思議じゃない殺人。

警察に知られたのはこれが最初。

どこから情報が漏れたのかは知らないが。

「『喰欲(しょくよく)』」

「あたり」

20110501

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