Fall in your song!

□#36
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ケータイが鳴ったので、寝転がったままの名前はテーブルの上に手を伸ばしてそれを取った。発信者を見て、がばりと起き上がる。

「はい、苗字です」
『よお、名前ちゃん。久しぶり』
「はい、お久しぶりです、龍也さん」
『あいつら元気か?』

あいつら、がST☆RISH――かつての教え子を指しているのが分かっているからこそ、名前はこっそり笑って「元気ですよ」と答える。

「今日なんて、レンさんと真斗が口論している最中に那月さんがいきなり暴れ出して、翔くんが止めたかと思えば二次災害が音也くんに降りかかって、トキヤと春歌ちゃんが巻き添えを食らうくらいには元気でしたよ」
『……おぉ、そうか』

それは元気で片付けられる事柄ではない気がするが、龍也は何も言わなかった。
ちなみに名前はそれを見ながら爆笑していたのだが。

「で、今日はどうしたんですか?」
『あー、明後日なんだけどよ』

思い出したような言葉に、名前は頭の中のスケジュールを引っ張り出す。

「明後日? 雑誌のインタビューが一件と……」
『ああ。そのインタビューなんだが、ウチの学校でやることになった』
「時間は変わりないですか?」
『変わらない』
「了解しましたー」

カバンからスケジュール帳を出して予定変更しておく。
それにしても、日向龍也御自ら予定変更連絡をしてくるのは珍しい。いくらシャイニング事務所業務に関わっているとは言え、不審感は拭えなかった。
そんなことを頭の片隅で考えていると、龍也は「……で、」と言葉をつなげる。

『インタビューの後、コウギを頼みたいんだが』
「……抗議? 何のですか」
『そんなの仕事に関することに決まってるだろーが』
「いえ。別段、抗議することなんてないですけど」
『は?』
「え?」
『「……」』

チッ、チッ、チッ、チッ、チッ……

「ああ、講義!」『ああ、抗議な』

互いに相手の勘違いを見抜くと、それがおかしくて笑ってしまう。
ひとしきり笑ってから、名前は見えないと分かっていながらも敬礼した。

「講義ですねー。了解しました。私も聴講側に回ろうかな。みんなのお話楽しそう」

現役アイドルが講義というか講演というか、まあそういうことを母校・早乙女学園でやることがあると聞いたことがあったので、そのことだろう。だとすれば、なるほど、と名前は思う。
インタビューの会場を早乙女学園に変えることで、そのままST☆RISHには講義してもらえばいい。そして教師である龍也から連絡が来るのは納得のいく理由である。

『いきなりだけど、頼んだぞ』
「はい」
『七海もな』
「……は、い? ん?」

かくん、と名前は首を傾げた。どうしてそこに春歌が出てくるのだろう。
そんな疑問を彼女が抱いていることに気付かなかった上司は、じゃあ、と電話を切ってしまった。
名前はケータイを畳むと、うーん、と天井を仰ぐ。
そして再びスケジュール帳に視線を落として気付いた。

「…………あ。」

そして久々の、お得意の文句が零れ落ちた。


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