Fall in your song!
□#35
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車の前で、稚早はいつものような穏やかな笑みを浮かべていた。
「じゃあ、僕はここで」
「うん」
一緒に乗って帰るかと訊かれて名前は断ったところだった。
まだ明るいから、電車に乗って帰っても大丈夫な時間帯だ。
車に乗り込もうとしている稚早を見て、あ、と思い出して名前は稚早の服を掴んだ。
「? 何、ソウ」
「名前」
「は?」
きょとんとした稚早に名前は、にこっと笑って繰り返す。
「名前。私のこと、これからは名前って呼んでよ。稚早なら本名で呼ばれてもいい」
「……ありがとう。嬉しい」
言葉通り、嬉しそうな笑みを浮かべて稚早は手を差し出す。
名前はその意図するところを察して同じように手を出した。
握手。
「改めて、これからもよろしくね、名前」
「こっちこそよろしくね、稚早。一緒に仕事が出来て嬉しい」
「うん。大住家が前の事務所に圧力かけてくれて良かった」
「……うん?」
手を離して、名前はトキヤと顔を見合わせる。
「どういうこと?」
分からなくて訊けば、ニッと笑って稚早は人差し指を立てた。
「前の事務所にさ、大住家が僕を辞めさせるように圧力かけてきたんだよ。だから前の事務所を出て、経済力とかその他もろもろで対抗できそうなシャイニング事務所に移籍したんだ」
「へえ。……前から思ってたけど、稚早って結構強かだよね」
「ははっ。褒め言葉として受け取っておきます」
じゃあね、と今度こそ手を振って別れる。
車を見送ると、名前たちは駅の改札を抜けた。
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