Fall in your song!

□#29
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久々にキッチンに立った名前は、冷蔵庫を見て唖然とした。

「空っぽ……」

名前が去ってから一カ月経っているのだから、冷蔵庫内が前と同じような環境下にあるとは思ってはいなかった。料理をしている暇もなさそうな彼らであるから、中身がそんなに充実していないのも想定済み。しかし。

「これは想定外だなぁ」

真剣に唸った名前は時計を見る。果たしてこの時間に開いている店などあっただろうか。
しかしすぐに名前は自室にコートを取りに行き、ポケットに財布を突っ込んで玄関に向かう。行くだけ行ってみて、開いてなかったら別の策を講じるまで。
ショートブーツに片足を入れた時、階段を下りてくる足音に気付いた。

「……あれ。名前さん?」
「音也くん。おはよ」
「おはよ。どこ行くの?」
「ちょっと買い物。朝食作ろうと思ったら食材何もないんだもん」
「あ…あはは」

分かっていて放置していたらしいことが判明した。
頭を掻いて視線を逸らした音也はすでに着替えており、そのことに名前は疑問を抱いた。

「……っていうか、音也くん、早いね。仕事?」
「あ、うん。月曜から土曜まで、朝のニュース番組にST☆RISHのメンバーが一人ずつ出てるんだよ。って言っても、一カ月だけだけどね」

今日は俺の番ってわけ、と笑った音也の笑顔は見ているこちらが元気になるものだ。
名前は微笑んで、とんとん、と靴を鳴らす。
自分がいない間に彼らは着実にトップアイドルへの階段を上っている。

「朝から音也くんの笑顔が見れたら、一日元気に過ごせそうだね」
「そうかなっ?」
「うん。あ、じゃあ、もう出るの? 朝食、食べられなさそう?」
「そうだね、残念だけど。でも、あっちで朝食用意してくれてるから大丈夫だよ」

音也が名前の隣に並んで靴を履く。

「途中まで一緒に行こうよ、名前さん」
「! ぜひぜひ」

鍵を掛けて二人で歩きながら、開いているお店を見つけて別れるまで彼らは他愛もないことを話していた。
――そして現在。名前は食材の前でまた唸る。

「しまった。何にも考えないで来ちゃった。何作ろう」

米を炊いた記憶は当然ながらない。
そして名前は今、ST☆RISHのマネージャーではないから、誰がどの時間にどういう仕事が入っているのか、全く分からない。

「……ってことは、とりあえずパッとすぐに作れるもの?」

店内を二周してカゴに食材を入れた名前は、何も考えずにレジに並んだ。


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