Fall in your song!
□#20
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龍也は家まで一緒に来て、メンバーと名前を迎えるはずだった春歌は、龍也に抱きかかえられたマネージャーの姿にうろたえた。
「名前さん……!」
「こいつの部屋はどこだ」
駆け寄る春歌に状況を説明せず、健が尋ねる。
一瞬相手にどういうことかと言いたげな目を向けるが、春歌はそれでも名前の部屋へと彼らを案内した。
「お前らはリビング行ってろ」
龍也に顎でリビングの方面を示されて、付いて行っても何もできないと分かっているから、メンバーはその言葉に従った。けれど、何もできないからこそ、自分がはがゆく、もどかしい。
春歌が名前の部屋の前まで案内すると、龍也は彼女にもリビングに行くように言った。
去ってゆく春歌の背を見送り、健が部屋のドアを開け、龍也がベッドまで彼女を運び込む。
名前の荷物を持っていた健が近くの机にそれを乗せて、そのまま壁にもたれて腕組みをした。
「……あいつらに、話す時が来たってことか」
ベッドの端に腰掛けて名前の顔にかかった髪を払ってやりながら、龍也も頷く。
そして涙の痕を見つめながら、龍也は呟いた。
「それで、いいよな? ――ソウ」
答える声はない。
けれど、そう呼ばれた彼女の表情は、ひどくつらそうだった。
リビングに龍也と健が入ると、部屋にいた者が全員彼らに注目した。
「リューヤさん、名前の具合は?」
「ああ。大丈夫だ。意識失ってるだけだよ」
そう、良かった、と心の底からの安堵の空気がその場に流れる。
すると、ぽつりと健が呟いた。
「名前は、こんなにも好かれてんのな」
言いながら椅子に座り、龍也も隣に腰掛ける。
メンバーと春歌に向き合う形で座った彼らは、試すような視線をぶつけた。
「言っとくが、これから話すことはそんな軽い話じゃねぇ。それでも聴くってヤツだけ残れ。そうでなければ部屋にでも行ってろ」
告げて相手の行動を待っていると、皆が真剣な目を向けてきた。
覚悟を決めた目。どんな話も受け入れるつもりなのだろう。
分かっていたが、改めて現実にこういう状況が現れると、健も龍也も少し嬉しかった。
二人が互いの顔を見合わせて頷く。
そして、名前の過去を語る前に、確認の意を込めて健は一つの質問をする。
「お前らは、〈ソウ〉をどれほど知ってる?」
メンバー全員が顔を見合わせる中、春歌が申し訳なさげに手を挙げた。
「あの……ごめんなさい。私、知りません……」
「「えっ!?」」
「あまり、テレビ見てなかったので……」
「「……」」
そう言えばそんな話聞いたことあったかも、と音也が頬を掻きながら呟く。
しかし健は、ふーん、と大したことでもないかのように、他のメンバーに目を向けた。すると、トキヤが彼と目を合わせる。
「デビューシングルでミリオン突破という偉業を成し遂げ、続くセカンドシングルも大ヒット。しかし、自身の出演した映画の主題歌であるサードシングルを出した直後――引退。映画も、歌も、彼女の芸能史上最高の売り上げを記録したというのに」
そこまで話が辿り着いたところで、健がふぅ、と息を吐いた。
「ま、そういうことだ」
首を傾けた春歌に、深く椅子に腰かけた健は言う。
「分かってると思うけど、ソウの正体は――名前だ」
大きく目を見開いた春歌に苦笑し、健は名前の過去を話すため、再び口を開いた。
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