Fall in your song!

□#19
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生放送の音楽番組の特番に出演する彼らは、楽屋入りして名前に珍しいものを見るような目を向けた。

「挨拶回りに同行しないだと?」

真斗が言われたことを反芻すると、名前は椅子に深く腰掛けながらこくりと頷いた。
いつもなら必ずついてくる名前がそんなことを言うので、メンバーは顔を見合わせる。

「いいからさっさと行ってきなよ。私、少し寝るからさ」

そこまで言われて初めて理解できた。
呆れたようにため息をつき、那月が名前の頭を撫でる。

「また頑張っていたんですか? きちんと寝ないと、体壊しちゃいますよ」
「うん。ごめんね。心配してくれてありがとう」

何かあったら呼んでね、と微笑んで見送り、名前は腕を組んで寝る姿勢に入る。
けれどすぐに目を開けた。
――最近、どういうわけか三年前の夢をよく見る。すると決まって飛び起きてしまい、そのまま同じ夢を見るのが怖くて眠れなかった。
だから那月たちが心配しているような、仕事ゆえの睡眠不足なのではない。
それにしても、嫌な感じだ。
カバンから手帳を取り出して、ぱらぱらとめくり、時々書き加える。
名前が最近、眠れないときにやっていることだ。
するとフッと眠気が襲ってきて、そのまま頭を垂れて眠りにつく。
しかし、眠りが浅い。
ガチャ、というドアの開く音にパッと目が醒めて、戻ってきたメンバーに笑顔を向けた。

「おかえり」
「あっ、お前、全然寝てなかっただろ!」

翔が咎めるような口調で言い、びし、と名前の手の中の手帳を指差す。
するとメンバー全員が厳しい目を向けた。
へらっと名前は笑う。

「寝てたよー。手帳見たまま寝てただけ」
「「……」」

信じていないようだが、信じられない確証もない。
名前は立ち上がってメンバーの肩を叩いて回る。

「私のことは気にしないで。どうもみんなは心配性でいけないねぇ」
「心配させるのはどこの誰だい?」
「……私ってば愛されキャラ〜」
「「名前(さん/ちゃん)……?」」

おちゃらけたようなその言い方に、全員の声が地を這う。
さすがに名前も、すいません、調子に乗りすぎました、いや、マジで、と頭を下げた。
いつの間にか面倒をみる立場が逆転していることを、今更指摘する者もいなくなってきていた。


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