Fall in your song!

□#18
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仕事をこなしている様子をスタジオの壁際で見ながら、名前は爆笑を堪えていた。
バラエティ番組のゲストとして呼ばれたメンバーが、進行役のタレントにいじりにいじられているからである。たじたじの彼らを見るのは面白く、カメラが自分に向けられていない時、名前を睨んでくるそれぞれに、ごめん、と全然思ってもいない言葉を口パクで伝えた。

「はい、カット――! お疲れさまでーす」

スタッフの言葉に、メンバーが挨拶をしながらすぐに名前の元に集まってきた。
もう堪えてなくていい、と判断した名前は、その場で笑いだす。

「レンさんや那月さんはともかく、他のみんな、純情すぎ! 恋愛の話が来たらいじられるに決まってるのに、それを避けもせず、むしろどんどん深みに嵌っていくとか、しかも話す内容が……アハハッ! 今日のヤツ、絶対録画する!」
「「しなくていい!!」」

真っ赤になって怒るメンバーに、ひーひー言いながら冗談だよ、と手を振る。

「さて、次の仕事に行こう。一人ひとり別なんだから、移動を急ぎましょうねー」

回れ右をして先に歩き始めた名前の後ろ姿を見て、メンバーも慌てて付いていく。
スタッフに挨拶をして控室で着替え、外で待っていた名前と共に健の待つ車に乗り込んだ。名前が手帳を見て唸る。

「うーん。今日も……音也くん、かな」

今から個人ごとの仕事である。そういう時、名前は、一番仕事が遅くなりそうなメンバーと行動する。
最近は音也が個人のCDの発売日を間近に控えているため、自然と音也の仕事量が増えていた。

「えーと、今日、早そうなのが……真斗かレンさん。雨が降ったらトキヤもか。じゃあ、三人とも、夕飯よろしく」

時々、早く仕事が終わるメンバーに夕食を作ってもらうようにしている。理由は簡単。料理番組対策だ。――まあ、那月には効果がないかもしれないが。
名前の後ろに座っていた翔が、手帳を覗き込みながら不満げに声を上げた。

「たまには俺様の仕事にもついてこい!」
「分かった、分かった。そんなに翔ちゃんは私がいないとダメなのか」
「ちげーよ。名前がいると仕事が楽なんだよ! 誘い、断りやすいし」

誘いとは、きっと食事などの誘いだろう。確かに名前がいれば、断る理由がつけやすい。基本的には全員で食卓を囲みましょう、と提案している名前の言葉に未だにメンバーが従っているのは、何だかんだ言って、その時間が楽しいからである。
今日の食事当番を任されたレンも名前の席に身を乗り出す。

「たまには俺にも付き合って欲しいな、名前?」
「うん、分かった。出来るだけ平等に行動できるようにするよ」

そう言って、うんうん言いながら手帳を睨み始めた名前に、メンバーは笑った。

「無理をしなくていい。名前が動きたいように動け。俺に限らず、みなそう思っている」
「真斗は優しいねぇ」

ふふ、と名前が笑うと、真斗は少し赤くなってそっぽを向く。
優しいと言われて照れたのだろう。
名前は彼の曲の物と思われる楽譜を見つめるトキヤの顔を覗き込んだ。

「トキヤも、ついてきて欲しい?」
「別に、あなたがいなくても仕事はこなせます」
「ちぇ。冷たいヤツー」

返ってきた言葉がお気に召さないらしく、名前は口を尖らせた。トキヤは一つため息をついて楽譜を仕舞う。

「それに、今度私が曲を出せば、今度は私と行動する日が多くなるのでしょう?」
「まあ、確かに」

頷いた名前は、他のメンバーがトキヤに意味ありげな視線を送っていることには気付かなかった。
いたずらっぽく笑って、音也が名前に抱きつく。

「じゃあ、しばらくは俺が名前さんを一人占めだっ」
「そうだねぇ。まあ、逆もまた然りなんだけど」

ぽんぽんと音也の頭を撫でて、楽しそうに名前も笑う。
音也は人懐っこい犬のような弟、というのが名前の中での彼の位置付けだ。
その弟の頭に、スコン、と空の紙コップが飛んでくる。

「いい加減にしなさい、音也」

軽く睨んでいるトキヤに、やはり面白そうに笑うメンバーに、やはりまたも名前は気付かない。ただ、気付いたのは別のこと。

「――おい、車内汚すんじゃねえぞ……?」

健の地を這うような声に込められた怒り。
すぐさま紙コップを拾い、ごみ袋にしまう名前をミラー越しに確認して、運転手は満足げに唇を吊り上げた。


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