Fall in your song!

□#11
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衝撃的なデビューライブから2カ月が経った。
デビューシングルは新人にしては大いに売れた。
おかげで仕事は舞い込んでくるし、そこは名前の力量で取ってくる仕事だったものもあるにせよ、大方、ST☆RISHはアイドルとしては順調だった。
そして名前は。

「キャー!! マジで、カッコいい!!」

ばったばったと敵を倒す将軍様に、相も変わらず黄色い声を上げていた。
一人でソファを独占……正しくは、ソファとテレビを独占して、殺陣を披露する男優を褒め称える。

「見て、この、『刀は俺の一部』的な剣捌き! 最近刀を振り回すドラマって、どうしても刀に振り回されてるって言うか。でも、これは違う! 人が刀に扱われてるんじゃなくて、人が刀を扱ってるっていうのがよく分かるの。ホラッ、今の一振り!! 斬るって言うより、懲らしめる感じ!?」
「「……へえ」」

はっきり言おう。分からない。
メンバーと春歌は静かに人生ゲームを続ける。
今日はオフで、名前がどこから持ってきたのか、人生ゲームをやろう! と全員を強制的に参加させてやっていたはずなのに、盛り上がりかけた所で、彼女はテレビの前に正座した。
今話題の新人アイドルより、渋い男優をとるという奇妙な光景は、他者の目からは奇異に映るだろう。けれど、ここではこれが日常だ。――ST☆RISHとしては、少し悲しいけれども。
ちなみに静かにやる理由は、少しでも騒ごうものなら、名前が後ろも見ずにリモコンを正確な位置にヒットさせて、騒いだ当人を静かにさせるからだ。
さんざん歓声を上げてから、名前はテレビを消してゲームに再び参加する。
ルーレットを回して、出た数の分だけコマを進んだ。――その時。

「あっ」
「? どうした?」

メンバーと春歌がコマを覗き込むが、これと言って名前のマイナスになるような内容は書かれていない。しかし名前は、視線をそのままにして唸る。

「今日、事務所行くって言ったの、忘れてた」
「それは忘れてはいけないだろう」
「つか、早く行けよ!」

見事にツッコまれた名前は、頷いて立ち上がる。

「そーだ。春歌ちゃん。この前の楽譜借りてっても良い?」
「この前って……まだ完成してないですけど……」
「ん、いい。大丈夫」
「あ、じゃあ、取りに行きます」

パタパタと走って行く春歌とゆっくりした足取りで出て行く名前の後ろ姿を見ながら、今度はメンバーが唸る。

「七海、名前さんにどんな依頼されたんだろ」

音也がルーレットを回しながらこぼす。

「さあ。名前に口止めされてるからって、教えてくれないからね」

レンが音也のコマを進めるさまを眺めながら答える。
彼らのマネージャーは彼らにとってプラスになるようなことをしようとしていることだけは分かる。
――ただ、名前から何も知らされていないのが怖い。今までの彼女の行動、言動は突然すぎる上に、散々メンバーを驚かせてきた。
ぱたぱたと駆け戻ってきた春歌は椅子に座る。そんな彼女に、一応、訊いてみた。

「君は名前からどんな依頼をされたんです?」
「えっ!? ……えっと、その…内緒にしてほしいって言われてるので、ごめんなさい」

頭を下げる彼女に、もう誰も追求できない。
嘆息したトキヤは時計を見た。

「ああ――そろそろ、昼の時間ですね」

名前は今出て行ったばかりだ。昼食が作ってあるとは思わないし、彼女は外で食べてくるだろう。

「「…………」」

メンバーの大半は思った。
那月が作ると言いだす前に、

「俺、出かけてくる」
「俺もー」

席を立った。でないと、身の危険が忍び寄るから。


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