Fall in your song!

□#10
1ページ/3ページ

「「かーんぱーいっ!」」

グラスの触れあう高い音がリビングに響き渡る。

「みんなおめでとーっ。やっぱり、私の目に狂いはなかった!」

いつも以上にハイテンションな名前に、トキヤは眉を顰める。

「名前、あなたはソフトドリンクで酔う人間ですか?」
「なにおう! せっかく人が、喜びを精一杯表現してるのに!」
「炭酸がまずかったのか……。オレンジジュースに変えておきます」
「ちょっ、人の話、聞いてよ!」

二人の掛け合いに他の者が笑う。
勢い余って全員立ち上がっているあたり、彼らも浮かれていることが窺えた。
椅子に座って、名前は隣の春歌のグラスにオレンジジュースを注ぐ。

「春歌ちゃんもお疲れ様。次の曲も楽しみにしてるから。でも、急がなくていいからね」
「はい。でも、メロディがたくさん浮かんできて、曲の流れも固まってきたので、後で少し進めます」

少し興奮気味の春歌に、名前は薄く笑う。
メンバーは知らないだろうが、春歌は前年度優勝者の曲を聴かず、控室でたくさんの五線譜に音符を書き込んでいた。楽しそうだったのは良いとして、夢中になって五線譜が散らかされた控室をこっそり整理したのは名前だ。

「……ところで」

レンがグラスを置きながら頬杖をついて名前に視線を流す。

「審査員さんは何て?」
「――気になる?」

もったいぶって名前はニヤリと笑う。すると全員が身を乗り出してマネージャーの言葉を待った。
咳払いして、名前は真面目な表情を作る。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……早く言えよ!」
「そうだよ!」

堪え切れなくなった翔と音也が焦れると、名前は笑って告げる。

「良かったって、褒めてたよ。将来が期待されるって。私のおかげかもねー?」

最後を冗談めかして言った名前だが、返ってきた反応は予想と違った。

「……確かに。名前の力によるところも大きいな」

真斗の言葉に、他も同意を示す。
名前としては、何自分の手柄にしようとしてんのー(笑)くらいの反応を想定していたのだが。
招いてしまった照れくさい状況に、オレンジジュースを口に含む。その行動に那月が、可愛い、とわざわざ頭を撫でに来た。

「名前ちゃんもお疲れ様でしたー。これからもよろしくお願いしますね」
「そーそー! 俺らがこれからも輝いてるトコ、見せてやる!」

審査員コメントの中に、『輝いていた』という単語があったから、翔はそれを引用してきた。
けれど一瞬――名前の表情が強張る。
しかし、すぐに彼女は意味ありげに笑った。

「ほーお? 楽しみにしてるよ、翔ちゃん?」
「お前まで『翔ちゃん』って呼ぶなぁ!!」

叫んだ翔に、みなが笑う。
ライブの夜は、いつもよりリビングに明かりが点いている時間が長かった。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ