Fall in your song!2
□#49
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休日2日目。
雨が降り始めて外に出るのが億劫になった彼らは、名前の書庫にいた。
各自自分の読みやすい恰好で読みたい本を読んで、本の世界に没頭している。傍から見れば異様な光景だが、当の本人たちは楽しかった。
「名前ちゃーん。このシリーズの続きはどこー?」
「那月さんの後ろの棚にないー?」
「あ、あった。ありがとう」
「名前、オススメは?」
「もちろん、刑事小――」
「マンガでだ!」
「えー……。翔くん好みのは……」
「翔! 俺が読んでるの面白いよ!」
「あー、じゃあ、音也くんの既読本読むといいよ」
答えてページをめくると、横で本を閉じる音が聞こえた。その音に、名前は顔を上げる。
「……読み終わったの?」
「読み終わりました」
「感想は?」
「別にこの終わり方でも良いかと」
「……」
「……」
互いに互いの目を見ていると、周囲のメンバーおよび作曲家が移動を始める。具体的には、彼らから離れるように。
「え、何で?」
始まった。
「何で、とは?」
「ムカつかない? 最後の『この世界を私の命で救える。私の存在理由がやっと見つかった』って、てめぇ自分に酔ってんのか、あぁん? ってならない?」
「なりません」
「ウソでしょ!? 第一、ずーっと探していた自己の存在理由が生贄って! 納得するなよって思わないの!?」
椅子から立ち上がった名前に、トキヤは眉を顰めて返す。
「ヒロインが主人公に『あなたに出会うために生まれてきた』とか言いださないだけマシだと思いますがね」
「それもそれでチープでイヤだけど! でも、自ら死ぬこと選んで、しかもそのことを崇高なこととでも思ってるのが気に入らない!」
「死ななければいいんですか」
「にっこり笑ってさようならなんて、ありえん! なんで幸せになることを諦めなきゃいけないの!?」
「じゃあ、あなたは世界が終わってもいいと?」
「ダメに決まってるでしょ!?」
「じゃあどうしたいんですか」
「もちろん!」
ぴっと人差し指が立つ。
「世界救えて」
次に中指が立つ。
「自分も死ななくて」
最後に薬指。
「平和平穏な日常を過ごす! に決まってんでしょ!」
「……欲張りな」
呆れたようにため息をついて、けれど次には苦笑している。それは、離れた位置に移動した彼らも同じだった。
「名前らしいな」
「そうですねぇ」
「まあ、それでもいいですけれど、現実はそんなに甘くないですよ」
「そこを力技で!」
「できないからこの結末なんじゃないですか」
「「……」」
第二ラウンドが始まった。
その後、じゃあもし私が死ななきゃならなくなったら、トキヤは私を見捨てるの? という名前の問いに、視線を落として考えていたトキヤが顔を上げ、きっぱりと、そこは音也に代わってもらいますと言い放って、音也がショックを受ける、そして聞いていた者が笑う――という流れになった。そうは言っても、トキヤは音也にそんなことを実際には要求しない、と誰もが分かっていたが。
いつの間にか雨が上がっていて、彼らは話し合いの結果、ベランダで夕食を摂ることにした。
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