Fall in your song!

□#09
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ライブ前日。プロダクションごとの軽いリハーサルが行われた。
ST☆RISHも今、リハーサルをしている。しかし名前はその様子を初回の通しだけを見て、会場内や当日の控室を見て回る。
一応、チェックもかねているのだ。どのプロダクションがどのような人物を出すのか、という。事前に名前やグループ名が分かったとしても、すでに有名な新人以外は分からない。
腕時計に目を落として、名前は踵を返す。そろそろ戻らないと、いつぞやみたいにST☆RISHが、〈名前捜索隊〉に名を変えるかもしれない。
すれちがうスタッフに挨拶をしながら戻る名前を見て、ニヤリと一人の男性が笑う。

「見ーつけた」

その男性が名前の首に腕を回す。

「っ!?」

名前は首に回された腕を離すために手で掴んだ。





「七海、マネ……名前は?」

昨夜のごたごたで、真斗は名前に名で呼ぶことを強要された。曰く、トキヤが呼び捨てなら、真斗もそうしてよ、っていうか、マネージャーって呼んでたら、現場で個の判別がつきにくいし。うん、決定。
個の判別がつきにくい、という名前の発言に真斗は納得したらしく、彼なりに善処しはじめた結果がこれだ。

「お疲れー!」

ステージ横から現れた名前の姿に、みなは捜索隊を組まなくて良くなったことにホッとする。が。

「……後ろの男性は、どちらさまかな?」

レンの言葉はその場のメンバーの疑問と同じだった。
名前は笑いながらその人を前に押し出す。

「私たちの運転手さん! 私も三年前までお世話になってたんだー。……っと」

口を塞いだ名前に、すかさず翔が訊く。

「三年前? お世話になってたって、どういうことだよ」
「えっと、内緒。黙秘権行使。――とりあえず、今日からお世話になる、健ちゃん。ハイ、健ちゃんも挨拶して」

無理やり話題を変えた名前はそのまま隣の男性に挨拶させる。

「初めまして、大内健です。25です。今日からよろしく。えーと、好きな物は苦くないもの、苦手な物は、苦いもの。あ、さっきの名前の肘鉄も結構痛かったから苦手かも」
((肘鉄!!?))

メンバーが顔を強張らせると、名前の頬が膨れる。

「そんなん、健ちゃんが悪いんじゃない。いきなり首絞めてくるから」
「ちょっとした挨拶じゃんかよー」
「タチ悪いよ。……みんな、あと何か確認することある?」

健からメンバーに向き直った名前の言葉に、全員が首を横に振る。

「じゃあ、帰って練習しよっか。健ちゃん、さっそく出番」
「はいはい。行きましょうか、みなさん」

踵を返した健の後ろをついていく名前の姿に、春歌を含むメンバーは顔を見合わせる。

「また謎が増えたな」
「本当だよね」

けれどその場に突っ立っているわけにもいかなかったので、全員移動する。
会場を出る前にスタッフに声をかけてから出る。

「――大内さんに訊いたら教えてくれるでしょうか」

春歌が前を行く名前と健の姿を見て呟く。

「さあ、どうでしょう」

名前なら口止めしている気もする。
謎が謎を呼ぶとはよく言ったものだと思った。


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