Fall in your song!

□#05
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「いつもながら……」
「驚かせるのが上手いっつーか……」

真斗と翔がセリフを分割すると、他の全員が口を揃える。

「「スーツ着てどうしたんですか、マネージャー」」
「ふえ?」

むぐむぐと口の中の米を嚥下すると、名前は立ちあがってくるりと回る。

「どーお? 似合う?」
「似合わなくはないですが」
「ちょっと。あなたのそれは褒めてるの、貶そうとしてるの、どっち」
「名前ならなんでも似合うから大丈夫」
「ありがと、レンさん。お世辞でも嬉しいよ」

ニッコリ笑った名前は椅子を仕舞った。使った食器をシンクに持って行きながら事情を話す。

「今日、みんながレッスンに行っている間に、私はお仕事してきますんで、その服装でござい」
「えっ、みなさんについて行くんじゃないんですか?」

春歌の驚いた表情に名前はこっそり、ぐっと拳を握りしめる。

「ついて行かないよ。行っても私、何もすることないし」
「そうなんですか? じゃあ、私も見学に行くの、辞めます。名前さんがいないなら」
「ぐはっ」

しゅんとした春歌を見て、突然胸元を押さえた名前は床に膝をつく。

「名前さん!?」
「名前!?」
「大丈夫か、マネージャー!」

みんなが慌てて立ちあがって名前を囲むと、彼女は呻くように呟く。

「春歌ちゃん…私を殺す気か……!」
「え?」
「驚いた表情も寂しそうな表情も、どストライクっ。春歌ちゃん、お嫁においで!」

言い終わる前にぎゅっと抱きつかれた春歌は目を白黒させて、名前を支える。

「バカやってないでください」

春歌から名前を剥がしたトキヤはため息をつく。

「ちぇ。ま、そういうことだから。春歌ちゃんは見学行ってきなよ。私の代わりにみんなを見て来て。もしかしたら勉強になる出来事があるかもしれないよ?」

勉強…と呟いた春歌は頷いた。行く気になったらしい。
名前はカバンから鍵を取りだす。

「これ、ここの鍵ね。多分私の方が帰ってくるの遅くなるから。夕飯までには戻ってくるつもりだけど。あ。帰ってきたら本日の成果見せてもらうからねー?」

しっかりレッスンしてきてね、と念押しのごとく言った名前は、突然思い出したように声を上げる。

「あっ、忘れ物ー。取りに行ったらそのまま行くから。じゃ、頑張ってね。また夜にお会いしましょうっ!」

じゃっ、と敬礼する名前が扉の向こうに消えていく。
それぞれ食器を片付けたり食事を再開したりする間に、トキヤは名前の後を追った。

「マネージャー」

部屋から出てきたところで声をかけると、名前は振り向く。

「どうしたの? もう私が恋しくなった?」
「今から仕事に行くなら、頭を覚醒させてから行くべきです」
「やだなぁ、ジョークに決まってるでしょ。で、どうしたの」

真面目に返したトキヤに真反対の表情で応じて質問を繰り返すと、彼は視線を下ろしてからまた名前と目を合わせる。

「今日、時間があったら、練習に付き合っていただけませんか?」

思わぬ言葉に名前はキョトンと瞬く。しかし、ゆっくりと表情を戻して柔らかく笑った。

「いいよ。あなたがそうしたいと言うのなら」
「……ありがとうございます」

名前の返答に、トキヤは形容しがたい違和感を覚えた。けれど名前が「行ってくるね」と言葉にすれば見送ろうと体が動き、違和感の正体を見失う。
なんだったのか。
釈然としないながらもトキヤはリビングに戻った。


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